第20話 覚悟は決まっている。【彼女】

「こういう言葉って実際に言ってみるとすごく陳腐な響きなんだね。」


と私は笑った。彼はもうすっかり寒くなったのに、まだ中に半袖を着ていて夏の名残の様で眩しかった。なぜそんな彼は今、動揺しているのだろう。


「違う?」


「あぁ、いや、その、本当にごめん。」


きっと彼の方が先に決めたはずなのに、変なの。スマートフォンを確認しようとしている。きっと、フードファイターの彼女からのメッセージだろう。どんな関係なのか聞いてみようかと思ったけれど、やめた。それを特定することに、意味はないから。今、この二人の答えは出ているから。


「結局、どこも行かないで終わっちゃったね。」


「ごめん。」


「さっきから謝ってばかりだよ。こっちも暇つぶしにたくさん付き合ってもらっちゃった。ごめんね。」


そういうと彼は不思議そうに首を傾げた。


「みんな、人生の暇つぶししてるもんじゃないの?」


驚いた。行き当たりばったりにしては、いい男と私は付き合えたらしい。


「そうだね。」


と私は言った。


一つだけ、決めてきたことがある。笑顔で別れること。笑顔で始まらなかったから、せめて最後は笑顔で終わらせるのだと。今日が、私の始まりだから。


「私ね、あなたと二カ月離れて、わかったの。あなたといるの、結構楽しかったんだなって。」


「あの、本当にごめん。」


「違うの。責めたいんじゃなくて、だから、最後はありがとうって言って別れたいの。ダメ?」


「いや、そんなことはないよ。」


そういって彼は力が抜けた様にスマートフォンをテーブルに置いた。


「じゃあ最後のお願い。笑ってくれるかな?」


力なく彼は笑った。本当は最後、動画の中で見たような笑顔を見せて欲しかったけれど。それはできないのだろう。胸が少しチリチリした。ダメだ。ちゃんとしなきゃ。急がないといけない。もうちょっと、頑張って、私。


「本当に、ありがとう。聡。」


「こちらこそ、ありがとう。静香。」


ちゃんと笑えた。

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