第17話 見つかる。【彼】

彼女の誕生日、俺はフードファイターの彼女といた。誕生日はちゃんと覚えていた。彼女はいつも、俺の誕生日を祝ってくれたから。今年はなかったけれど。俺もプレゼントは買っていない。このまま自然消滅でいいんじゃないかと思ったりする。もう連絡を取らなくなって二カ月だ。それに、今フードファイターの彼女は、俺の台所でご飯を作っている。すごい量の。


「さ、食べよう!」


テーブルの上には唐揚げとサラダに煮付け、お味噌汁、そして炊飯器ごと置かれた。炊飯器は彼女が家から持ってきた。テーブルももっと大きいものに買い直すべきだろう。


「いただきます!」


そう言って彼女が嬉しそうに食べだした。唐揚げの山から一つとって俺も食べだした。衣がサクサクで美味しい。


「美味しい?」


「あぁ。」


「お、い、し、い?」


「めっちゃ美味しい!」


「よし!」


敬語はもう使わなくなった。


「またそんな顔で食べてる。ダーメ。ご飯は美味しかったらちゃんと美味しそうに食べる。そんで、ちゃんと美味しいっていう。これ、私と付き合うなら必須だからね。」


と可愛く言われた。


「はい。このお味噌汁もすごく美味しい。」


最近、俺は満ち足りている。パチプロとしても順調だし、ブログも概ね好評だ。フードファイターの彼女を通して、食事の楽しさも知った。明日、何をしようかワクワクしている。今の俺に俺はなりたかったのだ。


お味噌汁をすすりながら、ふと彼女が一度だけご飯を作ってくれたことを思い出した。とても、美味しかった気がする。何を出してくれたかもう思い出せないけれど。俺はあの時、美味しいと言っただろうか。


このまま自然消滅はダメだ、という気になった。俺は彼女に何も言ってこなかった気がするから。


けれど、それは今日ではないだろう。俺はスマホを手に取った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る