第16話 思惑はない。【彼女】

ずっと考えてる。私はどうしたいのか。


彼のブログはパチンコの話だけではなく、日常のことも綴る様になっていた。時々、あのフードファイターの彼女の影を感じた。ひどく彼の生活に関わってきているのだろう。


付き合ってほしいと、言ったのは私からだった。何も感じていないようにみえる空虚な彼の側にいれば安心しそうで。まだ、私はましだと。私もこのままでいいじゃないかと。


けれど彼は、ただきっかけがなかっただけだった。彼の人生は一気に色づいた。今の彼の側にいても安心感はない。ならいいじゃないか。何をこんなに怯えているのか。「彼氏」というものがなくなるのが怖いのか。それとも、「私」という存在が彼の中から消えるのが怖いのか。好きで付き合ったわけじゃなないくせに?彼のことを考えるには自分の汚いところと向き合わなくちゃいけなくなって、きつい。結局、連絡もせずダラダラとしている。このまま、初めの彼氏の様に自然消滅してしまうのか。それも、なぜか嫌だった。


最近は仕事に感謝していた。余計なことを考えなくて済むから。契約書のチェック。間違いが二箇所。付箋にどこが違うかと、どうすればいいか細かく書いていく。


「帰りましたー。」


営業がまた一人事務所に戻ってきた。数ヶ月前に転職してきた彼は、とても爽やかな人で、みんなに可愛がられていた。ちょうどこの契約書の主だった。席を立つ。


「帰ってきたばかりなのに、ごめんなさい。これ、確認お願いします。今、お茶を持ってきますね。」


「すみません。ありがとうございます。」


彼はいつも気持ちよくミスも受け取ってくれるから、とてもありがたい。「そっちで適当に直しててよ。」っていう人もいるから。お茶をお盆に乗せて戻ると、彼が付箋をみてなぜか笑顔だった。


「どうぞ。」


「ありがとうございます。あと、これも。」


と、彼は付箋をみせた。


「いつも本当に綺麗な字を書かれますよね。内容もいつも丁寧で。前の会社ではこんなにちゃんとしてくれる人、いませんでしたよ。しかも最後、いつもお疲れ様ですって書いてくれるでしょ?俺、これみるとなんか嬉しくなるんですよね。」


と、本当に嬉しそうな笑顔をみせてくれた。突然のことに、何も言えなかった。


「あれ?ごめんなさい。俺、なんか変なこと言いました?」


違う。ちょっと心が震えるくらい、嬉しいのだ。


「・・・ありがとうございます。いい誕生日プレゼントです。」


「え?今日誕生日なんですか?」


そうなのだ。彼から連絡もないけれど、今日は私の誕生日だった。


「うわあ!おめでとうございます!みんな!今日彼女お誕生日だそうです!」


大きな声で言うと、みんなからおめでとうー!と言う言葉が返ってきた。一気に盛り上がって、今日はみんなで飲みに行こうという話になった。こんなことは初めてで、困惑した。黙っている私に、彼は


「もしかして用事がありましたか?だとしたら、俺がちゃんと収めます!」


「いえ。」


強いて言えば、明日も仕事だということだ。次の日が仕事の日は、基本飲みにはいかない。でも、今日はそんなことで断るのはひどくもったいない気がした。


「行きたいです。とても嬉しいです。」


「よかった!俺、いい店探しますよ!何が食べたいですか?」


本当に爽やかで、素敵な人だ。

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