第15話 思惑がある。【彼】

彼女からの連絡は未だになかった。そのことに、俺はホッとしている。


フードファイターの彼女と週に一回は会うようになっていたから。だからといってその関係を進展させてはいないけれど。誘うのは俺からだし、彼女が特段俺に会うことを楽しんでいるのかはわからなかった。多分、毎週呼び出されてくれるから嫌われてはないはずだが。


夜風は昼の暑さを忘れるようになってきた。


「寒くなってきたね。」


と彼女が体をさするような仕草をみせた。


「着るものを持ってこないから。」


そういって、俺は着ていたカーデガンを彼女に被せた。彼女は「ジェントルマーン。」と茶化しながらカーディガンに袖を通した。俺のカーディガンを羽織った彼女はその体の小ささが強調されて、守りたい気分になった。聞いてみるべきだろうか。俺のことをどう思っているか。いや、彼女との関係の清算もまだしてないのに卑怯だろうか。まぁ彼女がいることを言ってないけれど。


駅までの道のりをゆっくり歩いた。前方に人だかりがあった。


「なんかあってるんですかね?」


「出待ちだろ。ここ、有名な地下アイドル専用の箱なんだ。」


「へぇ、意外。そういうのも興味あるんですね。」


「いや、フードファイターのユーチュバーがいるんだよ。ここのアイドル。」


「そうなんだ。」


大食いとアイドルって不思議な取り合わせだけれど、最近のアイドルは色んな特技を持ってる人が多いし、そんなもんなんだろう。


「あいちゃーん!今日も可愛かったでー!!」


聞き覚えのある声が響いた。彼女も同じことを感じたようで、顔を見合わせて、二人でその声の主を探した。


「あ!いた!あんちゃん!」


離れたところからもわかる、アンプ内蔵の大声。間違うはずもなかった。おっちゃんだった。おそらくそのアイドルのグッズだろう服に身を包んでいて、明らかに熱烈なファンだとすぐわかるような状態だった。


「なぁ。あの人、彼女が東京にいるから大阪から出てきたって言ってなかった?」


「言ってました言ってました。」


正確には小指をたてて、「これのためにきたんや。」と言ったのだけれど。


「その彼女って・・・」


「アイドル?」


出てきたアイドルは明らかに10代で。その子に必死に「今日も最高やったで!」と話しかけていた。


「え、あれ、若くない?」


「あんちゃん、ロリコンだったんだ。」


「いや、ロリコンって!」


思わず二人で吹き出した。慌てて口を塞ぎ、あんちゃんに気づかれないようその場を去ってから、二人で大笑いした。


「あの人、いつも私に若いっていいわーって言うのそういうこと?」


「なんであんちゃんと呼べと言われてたのかわかりました。」


「笑っちゃダメなんだろうけど、笑っちゃダメなんだろうけど!ちょっとあの絵面がシュール過ぎて・・・!」


「これは二人の秘密にしておきましょう。」


気づけば、彼女が俺の腕を掴んでいた。この雰囲気、今なら聞けるかもしれない。


「俺のことどう思ってます?」


しまった、この聞き方は卑怯だったか。けれど、彼女は俺の腕をぎゅっと掴んで、


「好きでもない男の人とご飯食べる趣味はないけど?」


と俺の左腕の下から首を傾げて最高の笑顔を見せてきた。普段、あんまり俺に対して笑顔見せないくせに。


女って怖いな。俺は言葉を続けた。






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