第14話 すれ違ってはいない。【彼女】

彼に連絡を取れずにいた。誕生日に会う予定もキャンセルしてしまった。二人の間で何かが進んでしまったのだ。それはもう止まってくれない予感が会うことを躊躇わせた。床にものを置かない主義の私が、置いたままにしている彼へのプレゼントが部屋の中で重い。


彼は元気そうだ。ブログが楽しそうだからだ。こんなの、見ちゃいけなかったのに。どこかに私の影を探してしまった。けれど、結局は見つからないまま、逆のものをみてしまうこととなった。


「パチプロvsフードファイター」とつけたれたその動画にはあの日見た小柄の女性が居た。1時間の制限の中で彼が勝った分を全て食べ物に変えて彼女が食べる。食べ切ったら彼女の勝ち、というものだった。そのパチンコ店は併設しているたい焼き屋のたい焼きと交換できるようで、勝った分は全てたい焼きに交換していた。最初から彼が当たりを引いた時から始まっており、彼女が「ずるくない?これずるくない?」と喚いていた。玉をたい焼きに交換してくるためにちょこちょこでてくるおじさんは彼が言っていた関西弁の人だろうか。1時間を12分にまとめたその動画は、パチンコ台を向いている彼の背中とフードファイターという彼女がたい焼きを抱えてひたすら食べているというとてもシュールな動画なのに、再生回数が1万回を突破していた。何が楽しいのだろうか。こんな動画の何が楽しいのか。


見てしまった、彼の彼女への表情を。


優しい顔をしていた。それは愛しい人のそれだと直感した。私といる時はつまらなさそうにしてるくせに。なんで女はこういうのを見分けてしまう能力があるのだろうか。こんなのいらない。夕飯を作る気力はなくなった。


「好き」という強い感情から始まった二人ではない。それは、最初から知っていた。

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