第11話 発見する。【彼】
ブログをやり始めた。
もちろん、おっちゃんのススメだけれど。始めは何を書いていいかも分からず、メモのようなものだった。けれど、おっちゃんがシェアしてくれたりするうちに少しずつ読者が出来て、「お陰で勝ちました!」とコメントがついた時は思わず「ありがとうございます!」と返信してしまった。
今ではすっかりハマってしまい、こういう空き時間は人気のあるブログを読んで研究するようになった。スマホの画面が急に動かなくなり、バイブが鳴る。おっちゃんからの着信だった。
「もしもし?」
「おい、今すぐこっちきぃ!いいことあるで〜!」
いうだけ言って、すぐに切れてしまった。何かいい台でもあるのだろうか。すぐに地図が送られてきた。場所は喫茶店。近くにパチンコ店があったろうか。けれどおっちゃんの言うことを聞いて悪くなったことはない。俺はすぐに支度をした。
お盆は終わったけれど、まだまだ真夏だ。照りつく太陽は暑くて痛い。喫茶店に入るとちょうどいい冷風が体を癒してくれた。
「にいちゃん!こっちやで!」
周りのお客さんが全員振り返ってしまう。おっちゃんのアンプは今日も絶好調だ。
「なんかいい台でもあったんですか?」
小走りに駆け寄ると、数人居ることに気づいた。見るからにお人好しそうな男性とカジュアルな服装で小柄な女性。そして、明らかにオーラが違う服装から爪から完璧な女性。
「こいつが“パチンコ漬けの日々”を書いとるやつや!まぁ俺の弟子みたいなもんや!」
「はじめまして。」
綺麗な女性が完璧な笑顔を見せてくれた。
「あ、どうも。」
「この人たちな、みんな有名なブロガーさんや。シェアしてもろたらラッキーやで。」
「え!みんなパチプロなんですか!?」
「アホ!どうしたらこの綺麗なねぇちゃんをパチプロやと思うねん!この人は美容ブロガー。」
あ、ぴったりだ。綺麗な顔で会釈してくれる。
「このおっさんは子育てブロガー。」
いやいや、おっちゃんの方がおっさんだから。「もうすぐ三人目が生まれるんですよ。」と優しそうな笑顔で言われた。いいお父さんだろうな。
「で、この子は大食い専門のユーチューバーや!ブログもおもろいねん!」
「え!フードファイターなんですか!?」
とてもそうは見えない小柄でほっそりした女性だった。大きめのパーカーがさらに彼女を小さく見せた。彼女は笑顔もなく会釈した。
「まぁ、こいつはなかなかの変人や!俺の渾身のギャグににこりともしたことあらへん!」
「女の子にそういうことを言っちゃダメよ。」
ファッションブロガーさんが優しくたしなめた。あ、なんかいい匂いがするな。おっちゃんがばつが悪そうに
「まぁ、なんだ。ほら、おまえも自分で紹介せぇ!」
と肩を叩いてきた。
「あ、えっと俺は・・・」
パチプロって名乗っていいものなのかな。そもそもどこからがパチプロなんだろう。
「・・・パチンコ好きで、ちょこちょこブログも書いてるんです。」
「パチンコで生活してるんじゃないの?」
「まぁぼちぼち。」
「なら、パチプロでいいじゃない。この業界は肩書きを名乗ったもん勝ちよ。」
「いや、でもなんかパチプロってちょっとカッコ悪いですよね。」
彼女の言葉がずっと残っている。彼女はそういう言葉を軽率に言わない。あれは彼女の本心だ。
「なんだと?おまえそんなこと思とったんか!?」
「あ、いえ、あんちゃんがそうだというわけじゃなくて。」
「なんでカッコ悪いの?」
フードファイターの彼女がまっすぐこちらを見て言った。綺麗な目をした女性だなと思った。
「みんな、自分ができることで食ってるだけだろ。カッコ悪いも何もない。なんだったら私、食べてるだけだし。」
そう言って微かに笑った。この人、笑ったら絶対美人だ。
「そうですよ。それを言ったら、僕なんて無職ですよ。まだまだ奥さんに食べさせてもらっちゃてます。」
申し訳ない、と言いながら子育てブロガーの男性は卑屈な感じはしなかった。
「好きなものを発信してお金を稼げるのって本当に幸せよね。」
「確かに。」
たった数分なのに、自分の居場所を見つけたような気分だ。それからみんなは俺のブログについてたくさんのアドバイスをくれた。タイトルを変えた方がいいとか、画像を入れた方が読みやすいとか。それぞれがそれぞれに真剣にやってるのだとわかる。こんな人たちの中に加わっている自分がひどく誇らしく感じた。そして、言葉少ななフードファイターを気にしている自分を発見した。言葉少なな女性が自分の好みなのかもしれない。
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