第10話 本質がでない【彼女】

朝、干し椎茸を水につけてきた。日が早くなってきた最近、一足先にに秋の風味を味わいたい気分になったのだ。今日は茶碗蒸しを作ろう。具材を何にするか、ちょっとワクワクしながら考えていた。


「暑い!もうそろそろ夏も退散してほくれ!!」


部長が汗だくで職場に帰ってきた。小太りで剛毅な彼は、色々と雑破だがその営業力は確かで、ここにはもったいないくらいの人物だ。彼がこの営業部を持たせていると言っても過言ではない。私は席を立ち、冷やしていたお茶に氷を入れて持っていく。


「どうぞ。」


「お、ありがとう。」


ぐいっと一息に部長はお茶を飲み干した。


「なんだ?いつもと違うな。」


「お抹茶です。お嫌いでしたか?」


ふぅん、と部長は言った。少しの沈黙が気になって、


「・・・安かったもので。」


と言葉を付け加えてしまった。やはり言葉はあまり多くない方がいい。これだとまるで、安いお茶を出されたと思われたかもしれない。抹茶にしては安い、というだけでいつもよりちょっと値段ははる。でも抹茶の色は夏にぴったりの涼やかさで、実はこの時期あたりからちょっとした旬なのだ。


「なんつーか、地味だよねぇ。」


「え?」


「もっとほら、若いもんは最近すむーじーとか洒落たもんが好きなもんじゃないか?インスタ映えするやつ!まぁ、君には確かにお茶の方が似合ってるけどな。ってこれはセクハラか?」


ははは、と聞こえるようなはっきりとした形で部長は笑った。


スムージーとか、この会社の予算で出せるか。そして立派なセクハラです。

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