第5話 出会う。【彼】

テレビのザッピングにも飽きた。


学生が終わって、取り立ててすることがなくなり、わかったことが一つある。


それはじっとするのも体力がいるということだ。


テレビは違う番組を流しているが、ずっとみていると存外同じ情報を使いまわしている。彼女がよく見るといった海外番組は全くハマらなかった。


耐えられず外に出た。行くとこなんて一つしかないけれど。残金は2000円。少しでも長くいられればいい。カップラーメンが一つ残っているから、1日は問題なく過ごせる。明日はお金が振り込まれる予定だ。


いつもの店でいつもの席に座って打ち始める。効きすぎたクーラーは汗を一瞬で冷やすのに、タバコの存在感は一切消えていない。


打ち始めると、ふと誰かの視線を感じた。勘違いだろうか。まぁ勘違いだろう。ここに通う様になって数年、知り合いに会ったことはない。


「なぁ!」


「うわぁ!」


反射的に声が出た。声の方に振り向くと小太りの、いかにもギャンブル好きそうな中年男性が立っていた。心臓の音がずっと耳元で鳴っている。


「にぃちゃん、いっつもその席で打ってへんか?なんなん?当たりがいいんか?」


テレビでよく聞く言葉使いだった。


「いや、別に・・・。」


「はぁ!?なんなんそれ?さてはにぃちゃんボンボンか?」


ボンボン、という言葉を脳内で少し変換にかけた。お金持ち、というわけではない。困ってないだけで。


「いや、別に。」


「なんや、それ!けったいな奴やなあー!何しに来とるん?」


「ただの、暇つぶしです。」


「アホ!男ならギャンブルは勝ちにいかんかい!」


きっと、パチンコという場ではなくても、彼はきっとアンプを内蔵しているタイプだろう。耳慣れない大声に困惑していると、彼は何やらスマホをいじり始めた。


「ほれ!見てみぃ!」


ずいっと出されたスマホの画面はブログだった。ヘッダーには、「できる!男の勝てるパチ術☆」という言葉。その横に、目の前の彼を20kほど痩せさせて、20年ほど若返らせたもはや別人がなぜかバラを咥えて写っていた。


「これみて勉強すれば、簡単に勝てるようになるで〜!しかもここはホームの一つや!あんさん、運がいい!」


ボンっと肩を叩かれた。彼のブログはヘッダーこそふざけているものの、読者数は1000人を超えていた。


「すごいですね。」


「当たり前やんか!俺はパチプロや!これで飯を食ってるさかいに!」


彼は生き生きとしていた。


「かっこいいですね。」


思わず言葉にしてしまった。俺は羨ましいのだ。何かに真剣になれる人が。彼はみるみる嬉しそうな顔になった。


「あんちゃん見る目があるやないか!しょうがない!あんちゃんに勝ちに行く勝負の仕方を教えたるわ!今日はぎょうさん勝たせてもろとるしなぁ〜!」


そう言って彼は台の選び方から解説し始めた。


頼んでもないのに不思議な人だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る