第4話 変わらない。【彼女】
うちに帰ると微かにタバコの匂いがした。
今日も彼はパチンコに行っていたのだろう。彼はタバコを吸わない。けれど、パチンコに長くいる彼は、タバコの匂いをいつも連れてくる。夏は、特に。それは少し嫌い。
服を洗濯機に入れてシャワーを浴びる。人参が一本余っていた。ひじきと合わせよう。あと、卵焼きとお味噌汁。最近、お味噌汁にトマトを入れるのに、少しはまっている。
切った人参の端はぬか漬けに入れる。おばあちゃんからもらったぬか床。これをもらってから、食材を余すことがなくなって、嬉しい。
水を張ったパックに入れた豆苗は二回目の芽をしっかり出していた。明日の朝はこれでおじやにしよう。
不摂生を絵に描いたような生活を送っている彼は、食に全く興味がない。一度、家に来たとき、食事を振舞ったら、彼は一言「地味だね」と言った。それから、なんとなく家に呼んでない。
彼とそういうことをするのは月に一、二度で、だいたい彼の家に行く時だ。何もしないで帰ることが多い。付き合い始めの頃から、そうだ。
夕飯の用意が整い、テレビをつける。最近は、海外の僻地に行くような番組が好きだ。そこの生活を想像してみて、まだ自分の方がマシだ、と思って少しホッとしている。
味気ない。
ここ二、三年、こんな生活を繰り返している。ご飯を作って、テレビをみて、明日の用意をして、仕事にいって、週末のどちらかは彼と会う。いや、学生の頃も同じような生活だった様に思う。何も前に進んでいない様な焦燥感がいつもずっと心の奥底に燻っている。
ひじきの煮付けは美味しくできたのに、なんだか満足できない。
テレビではおバカタレントで有名な女性がジェスチャーで海外の人とコミュニケーションを図っていた。
英会話でも習おうか。でもきっと、習うことはしないのだろう。
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