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「っはぁ」

 ドカッ、と腰を下ろした。周りを見渡すが誰も居ない。サウナ室には俺一人だけだった。

 ラッキー。

 ここのサウナ室はアロマも一緒に炊いてあって、リラックス効果も高い。心行くまで自分のペースで楽しむことが出来る。

「はぁー」

 蒸し暑いけど、これが気持ちいいんだよなぁ~、と伸びをした瞬間、冷たい空気が入り込んできた。誰かがやって来たらしい。

 残念。

 スーパー銭湯だし、仕方ないんだけど・・・

 俺が残念と思う理由。それは一人の空間を邪魔されたからではない。自分のペースを崩してしまうから、だ。なぜかと言うと、ついつい他のお客さんと勝負してしまうから。まぁ一方的に俺が挑戦するだけなんだけど。

 だって、なんか長くサウナに入っていた方が勝ったって感じしない? 別に勝った負けたなんてないんだけど。

 細身の白い男性が少し距離を開けて同じ段に腰かけた。男性の顔は見えないが、華奢で白い身体を見ると、俺よりは若いように思える。

 いざ勝負。負けないぜ!


 と思っていたのもどれくらい前だっただろうか。このサウナ室にはテレビはない。温度と湿度、それから時計が一緒になっているものが壁に取り付けられているが、汗で滲んで見えない。どれくらい入っている?

 隣の男性は頭からタオルを被って少しも動こうとしない。出る気はないようだ。

 この男性も俺と勝負をしている?

 可能性は高い。この勝負、男として負けたくはない、が・・・

「っ「はぁぁぁっ」

 息を吐き切る前に男性が大きな息を吐いて、被っていたタオルを勢いよく取った。驚いて視線を動かす。白い身体の男性は、

「もう、なんでさっさと出ないんだよ!」

「おま、ミヨッ!」

 知っている男だった。肩まである髪をくるんと留めていた。

「なんで」

 こんなところにミケんとこの男の娘スタッフが。

「なんでって、今日は学校が休みだからだよ。俺がここに来てちゃ悪い?」

 そう言えば学生だって言ってたような?

「いや悪くはねーけど」

「だったら早く出てよねっ」

 とそこで勢いよく立ち上がったのが悪かった。フラッと頭を揺らすと、踏み出した足と身体の向きが合わない。

「ミヨッ!」

 支えた身体は思っていたよりもガッチリしていて驚いた。なんて、思っている場合か。とりあえず水風呂に行かないと。

「大丈夫か」

「うん・・・」

 大丈夫じゃねーな。

 結局のぼせたミヨを介抱して、クランベリージュース片手に店を後にした。リラックスしに来たはずなのに、逆に疲れたような気がしないでもない・・・

 とりあえず、

「今度からサウナで勝負するのやめよう」

 と心に決めた。

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