男の勝負

カゲトモ

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『おっちゃんこれもう使わんから』と手渡されたのは、一枚の紙きれだった。そこには近所のスーパー銭湯の名前がでかでかと書かれてある。

 “天然温泉 水華”その下には“入浴無料”と書かれてある。

 そのチケットをくれたのは常連のおっちゃんだ。フラッと来ては一杯飲んで帰って行く人で、ここ一帯の全ての店の常連客だと思う。全ては、言い過ぎだったか? まぁ、それくらい色んな所で毎日飲むのが日課になっているようなおっちゃんなわけで。

 そのおっちゃんがくれたのが、スーパー銭湯の無料入浴券。しかも期限が今日までの奴。

 今日までって。

 いや、貰い物にケチを付けてはいけない。いくら期限が貰った日の次の日だったとしても、おっちゃんがいらないからだったとしても、捨てるのがもったいなかったからくれたのだとしても。タダで広い風呂とサウナに入れるのだから、ケチなんてつけてはいけない。

「明後日までだったらなぁ」

 定休日には二日足りなかった。いや、貴重な休みは違うことに使いなさいと言うことなのだろう。今日は開店準備の前にひとっ風呂浴びることにしよう。朝からタダ風呂だ。しかもクランベリージュースも飲めるじゃないか。仕事前になんて贅沢。

 かぽーん。

「はぁぁぁ」

 時計の針が真上もまだ向いていない時間。疎らなお客とちょっとした背徳の時間。空は青いし、空気も美味しいし、露天から見える紅葉は色づいているし、最高かよ。これで日本酒でも飲めたらなぁ、なんて。そんなわけにはさすがにいかないけど。

 岩盤浴にも行った、風呂にもゆっくり浸かった。持参したペットボトルの水を飲む。昨日購入したレモングラスを浮かべたハーブ水だ。ごくん、と喉を鳴らす。さぁ、まだ時間はある。行こうじゃないか。

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