第41話 「灰とダイヤモンド」解釈 / POPIOL I DIAMENT - 監督:アンジェイ・ワイダ
「灰とダイヤモンド」解釈 原題:POPIOL I DIAMENT(ASHES AND DIAMONDS)-Andrzej Wajda
監督:アンジェイ・ワイダ(1957年-ポーランド)
1)「ワルシャワ蜂起(ほうき)」から、映画の時代背景を考える。
ワルシャワ蜂起は、第二次世界大戦後期、ナチス・ドイツ占領下のポーランドの首都ワルシャワで起こった武装蜂起である。ワルシャワの街は、ほぼ破壊され、レジスタンス(抵抗)した15-25万人程もの市民が虐殺されたともいわれる。
その後、ポーランドを占領していたナチス・ドイツが連合軍に降伏し、ポーランドは自由へと解放される。
しかし、
次には、スターリン体制下のソビエト連邦共産党の侵略により、ソビエト連邦共産党体制下に置かれた。
スターリン体制下のソビエト連邦共産党の政治介入を許した東欧諸国で、唯一、ポーランドには、その社会主義(ポーランド共産党)から、自由主義政府を願うグループが存在していた。
2)撮影時の時代背景と映像理論での解釈
「灰とダイヤモンド」が制作された1950年代前半は、ソビエト連邦共産党支配下にあるスターリン体制下であり、出版物や映像表現に厳しい検閲のあるポーランドであるということだ。
その検閲の通過は、視点を変えれば、主人公はだれだ、ということだ。
マチェク、シチューカのそれに対して、この映画の評価は変わる。
シチューカは、新生ポーランドにソビエトの協力を得たいとした。
マチェクは、ポーランド共産党員の暗殺、そして、その後の改革により、自由なポーランド体制への方向性の一端であろう。
3)「灰とダイヤモンド」ストーリーとその周辺
この映画は、ポーランド地方都市での1945年5月の4日間の出来事を描いている。
マチェク(ズビグニェフ・チブルスキー)は、ワルシャワ蜂起(ほうき)以降、
祖国ポーランドの自主独立を目指し、共産党による新政府に抵抗する組織のテロ実行員として、共産党指導者であるシチューカの暗殺という任務を遂行する24歳の青年である。
シチューカの乗用車を襲撃した筈のマチェクらであったが、戦勝祝賀会が行われているホテルのロビーでシチューカを発見し、暗殺が失敗であったことを知る。
そして、
マチェクは、ホテルのバーのカウンターで働くクリスチーナ(エバ・クジジェフスカ)と出会い、二人は瞬時の恋に落ちる。
マチェク「恋はしないの?」
クリスチーナ「したくないわ」
マチェク「何故そう決めてるの?」
クリスチーナ「毎日をこれ以上難しくしたくないの……」
どちらもがナチス占領下に家族を失った孤独な身であることがほのめかされる。
クリスチーナ「ねえ、あなたはどうしていつも黒眼鏡をかけてるの?」
マチェク「記念さ。祖国ポーランドへの大いなる、そして不幸な愛を記念してね。つまらんことさ、気にするな。まあ、本当のことを言えば、蜂起の時にあまりに長く下水道の汚水に浸かり過ぎていたので……」
街を彷徨う二人は、雨宿りの為に駆け込んだ教会の古い墓碑名に出会う。
若い二人にとっても、明日を暗示する詩であろう。
「持てるものは失わるべきさだめにあるを
残るはただ灰と嵐のごと深淵に落ちゆく昏迷のみなるを
永遠の勝利の暁に灰の底深く
燦然たるダイヤモンドの残らんことを……」
(19世紀のポーランドの詩人ノルビッドの弔詩)
そして、
夜闇に上がる戦勝祝賀の花火を背に、シチューカに弾丸を撃ち込むマチェク。
マチェクに抱きつくように息絶えるシチューカ。
その時点は、シチューカの1人息子も白色テロ組織の一員として逮捕され銃殺刑が決まった時点にあった。
クリスチーナに別れを告げ、仲間達と旅立とうとするマチェクであったが、
その後、ポーランド警備兵から、不意にマチェクは、弾丸を浴び、路傍のゴミ捨て場で、もがき苦しみ・・・・・・
ラストシーン。
ここにあるのは、イデオロギーや国家に翻弄され続けた1人青年の青春と生命、そして苦悩する社会である。
(註)マチェクを演じたチブルスキーのその後
ポーランドのある世代の伝説を具現化した男、マチェクを演じたチブルスキーは、1967年、40歳の若さで早逝。汽車に飛び乗ろうとした末の轢死(れきし)であった。
チブルスキーの死を知ったワイダのコメント
「チブルスキーは、特定の世代、すなわち私達の属す世代の凝縮だ。彼が死んでから、それが増々はっきりとしてきた。彼は、灰とダイヤモンドの中で、その歴史という強迫観念に取り憑かれた青年を、最も完全に体現してみせた」
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