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キリがないと御影は歯軋りし、ケテルの攻撃を受け続けていればいずれ力尽きると意識を別に向けた。
死別の時を迎えようとしている兄弟を捉え、ニタリと口角を上げた。
「残念だったな、死神。せっかくの家族との再会も束の間の出来事となった。これで肉親はいなくなる。孤独を嫌っていた貴様のために、我が直々に助力してやろう――貴様もろとも始末してくれる!」
「やめろ!!」
ケテルが力を一本の矢に集束させ、鏃を抜け殻状態の蒼斗に向けた。
亜紀は咄嗟に少しでも軌道をずらそうと、弾切れになった銃を御影に投げつけた。
召喚した者と召喚された者は、五感が見えない枝で繋がっている。
投げた銃は不意を突いて御影の腕に当たり、その表情が歪むと同時にケテルの顔も痛みで変化した。
放たれる直前に意識がそれ、矢の軌道は外れ――蒼斗の頭部を掠めた。
突然の衝撃に対応出来なかった蒼斗は、背中から倒れ込んで動かなくなった。亜紀や瀬戸たちがいくら言葉を投げかけても、全く反応はない。
「死神風情が崇高な血を引く我が御影を滅ぼそうなど、百年早いわぁ! その忌々しい血を根絶やしにしてくれる!」
黒羽だけでなく、蒼斗まで撃たれたことで完全に頭に血が上った亜紀。額には青筋をくっきりと浮かばせていた。残りの弾が僅かしかない状態で、今にも飛びかかりそうな亜紀。慌ててそれを瀬戸が止める。
御影は炎上していく街を見て、鼻を鳴らして言った。
「もうこの国など興味もかけらもないわ!」
「何?」
「ここは時期に滅びる――ならば、ここを捨て、貴様らのペンタグラムに新たな我の新しい世界を築くまでだ!」
御影の聞くに堪えない笑い声に、憮然とした表情を見せる瀬戸。
「さっきから聞いていれば、何処までも下衆だね、君」
「ペンタグラムはお前のような人間に扱えるものじゃない」
「扱うのではない、従わせるのだ! この我こそ、絶対的な力を持つ我こそが、新たな世界を築く王となるのだ!」
御影の声を合図に、衛兵たちが再び襲いかかって来た。既に屋上に待機してあるヘリは乗っ取られ、無線も全てジャックされてしまっている。
銃弾は少なく、銃がなくても剣で敵を静めることは出来る――が、数多の修羅場をくぐって来た亜紀たちでも、流石に体力は限界に近づく。
「まずい、このままオリエンスが崩壊したら神の悪夢が破裂してセントラルを中心に狂蟲狂魔共々溢れ出してペンタグラムを浸蝕する!」
「爆発を止めるしかない!!」
「これで終わりだ、侵入者ども! 憎き死神もろとも肉片となるがいい!」
流れ弾が腕を掠め、亜紀たちの顔からはいつもの余裕さは既になくなっている。最早これまでかと諦めかけた。
「蒼斗――っ!」
亜紀は視界の端で倒れた蒼斗に衛兵の銃口が向いているのを捉え、あらんかぎりの声で名を呼び、叫喚した。
――お前だけは生きて欲しい。
――いずれ誰もが自由になり、権利を奪還し、平穏な日々が戻ってくる。その時は一人の人間として、精一杯生きて欲しい……私の分まで。
――ちゃんと、返してくださいね。
刹那、カッと目を開いた蒼斗の瞳が青く光った。
間髪入れず、銃を向けていた衛兵の前を何かが過った。衛兵は自分の銃を握る腕が、床にゴトリと音を立てて転がるのを見て絶叫した。
「うわあぁぁぁぁ! 腕が……オレの腕がぁぁぁ!」
激痛にのたうち回る衛兵を尻目に、蒼斗は上体を起こした。
額から顎に滴る血を手の甲で乱暴気味に拭い、目元を赤くさせこちらを呆然と見る亜紀に微笑みかけた。
「呼びましたか、亜紀さん?」
「蒼斗、お前……」
亜紀は言葉が出なかった。
蒼斗が無事だったこともそうだが、独りでに浮かぶ大鎌に何がどうなっているのか状況が把握しきれなかった。
蒼斗は大鎌をくるりと右手に収め、徐に目を伏せた。
「ごめん……本当にごめん――兄さん」
「蒼斗?」
「あなたは……っ、兄さんは、僕を守るために全部背負ってくれていたんだね」
蒼斗は頭部に銃弾を掠めた衝撃で、眠っていた記憶を呼び覚ました。
「僕たちの、血によって導かれる使命を、兄さんは一手に引き受けようとしていたんだね。過去も現在も……未来も」
「……どういうことだい?」
死神と呼ばれた葛城の人間は、代々その力を受ける際、先代死神のこれまでの御影との戦いの記憶が継承される。
蒼斗は全てを悟った。
オリエンスは御影により支配――否、統一された。
その後ろ盾には葛城家初代の存在があった。
両者は当初、このような独裁政権を望んではいなかった。
彼らは互いを憎み合う存在ではなく、かつては心を通わせた友だった。互いによりよい社会をつくろうと尊い夢を抱き生きてきた。
そしてある時を境に御影に備わった予知能力と、葛城の小さな助力で腐敗しきった内政を少しずつ排除し、実権を握るまでに至った――始まりはそれだけのことだった。
だが、御影は道を見誤った。
自分にひれ伏す光景を目に焼き付けた御影は、人が変わったかのようにその力を私利私欲のままにふるい、莫大な富と名声を貪ることに明け暮れた。
ついに御影はオリエンスの繁栄のために力を貸して欲しいと説き、死の四騎士の力を葛城に与えた。
――葛城が、己に従う者とそうでない者を篩いにかけるための道具として良いように利用されたと気づく頃には既に遅かった。
呪いのように末代まで延々と継承されるその力は葛城の心を砕くのに十分すぎた。
葛城は絶望した。同時に悟った。理想郷を描いていた友がこうも力に溺れてしまう脆い人間だったとは。
だから葛城は決意した。
この地位まで御影を導いてしまったのは自分。
ならば、地獄と化したこの国を清算しなければならない――例え、何年何十年かかろうが、この身が朽ち果てようとも。
――結局、御影の息の根を止めることは叶わず生涯を終えた。
だがその悲願は呪詛のように次の死神、黒羽と蒼斗の父親に受け継がれた。
水面下での両者の衝突は続き……大きな代償、ゼロ・トランスが起きた。
そして現在、継承順位は黒羽が最初であるが、今回はどういうわけか蒼斗にもまた同時に死神の力が宿った。
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