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奈島が呼んだ応援が来てから数分後に男は拘束され、パトカーに詰め込まれた。
それからすぐに白井の方に聞き込みに行っていた亜紀と卯衣が到着した。
「ご苦労だったな、三人とも」
部下たちに話を聞かれないよう現場から少し距離を取ったところで様子を伺う。
騒ぎが気になって様子を伺う近所の人間がよく見えた。
ある家ではカーテンを少し開け、ある家ではわざわざ窓から身を乗り出して見ている。野次馬を退けている奈島の部下たちを横目に話を進めた。
「白井の方は?」
「物分かりの悪い雌ぶ……秘書が中々取次ぎしなくて手間取ったが、話は出来た」
「初めはSTRPの人間だと思っていたのか分からないけど、すっごく香水臭くて不愛想な対応から、バッジと銃見せたらすっかり怯えきっちゃって、すぐに責任者出してきたよ! 凄く惨めで醜くて面白かったよ!」
手を銃の形にして楽しそうに笑う卯衣に対し、話を聞いた蒼斗と奈島は、卯衣が言うような胸が躍るような光景は一切想像出来なかった。
強いて言えば、綺麗に磨かれ光沢を発する亜紀の愛用する黒い塊に怯え、目をパンダにする光景だ。
あまりAPOCの存在は知られていない方だが、裏事情に手を染めている人間は誰でも知っている。秘書は典型的な反応を示した。――つまり、そういうことなのだろう。
「まぁ、あの女と秘書については後日アラタメテ訪問させてもらおうかね。彦の情報からすると研究費をここ半年横領していたっていうからな」
蒼斗は狩りが楽しみだとほくそ笑む悪魔を受け流し、子どもの前で物騒なことを言うなと窘める。
「お兄ちゃん、狩りって何?」
「そりゃ銃を使って撃つんだよ」
「亜紀さん!」
「撃ち落とすの? おじちゃんの家のテレビで見たよ! 楽しそう!」
「ええええ……」
手を銃の形にして嬉々として喜び、ばーんとその言葉を口にして飛び跳ねる。
わずか六歳にして物騒な言葉を口にする祐樹に蒼斗は顔が痙攣した。亜紀は楽しそうに祐樹の頭を撫でた。
「デカくなったらAPOCにでも入るか?」
「亜紀さん!」
「冗談だ。……APOCが存在しない国をつくるのが、世界の理想なんだからな」
「え?」
――すると、奈島の端末に部下からの連絡が入った。
なんでも、被疑者として呼び出していた篠塚ほか二名がSTRPから逃亡したとのこと。
何処まで手間を掛けさせる人間だ、と報告を受けた亜紀は深い溜息をついた。逃げたところでどうにかなるわけでもないのに。
もっとも、どのみち事件とは無関係で、蒼斗に対する嫌がらせの報復目的だったのだからそれはそれで構わなかったのだが。
亜紀は然程気にした様子もなく、すぐに見つけてシバけばいいと話を元に戻した。
「奈島、現場検証は終わったか?」
「あぁ。やはり大倉の書斎はかなり荒らされていたっス。研究データを探していたようっスね」
「しかし今回の事件に関する書類は犯人でも見つけられていないようだ。わざわざ身内を脅してまで聞き出そうとしているんだからな」
「それについては向こうでボロ雑巾になるくらいまで絞り上げれば分かることだ」
「しぼる、しぼる!」
「あー、もう! 亜紀さんやめて下さいってば!」
「ならさっさとそのガキを奈島の部下に預けて来い」
「それが出来たら苦労しませんよ!」
祐樹は蒼斗と外に出てから今に至るまで離れようとせず、女性捜査官に預けようにも蒼斗の首にしっかりと巻き付いて嫌だと拒否を続けるばかり。
どういうわけか、蒼斗はすっかり気に入られてしまっていた。
「もしかしてあの捜査官が綺麗だから照れちゃったりして」
「……まぁ、何にせよそのガキはお前がいいと言うんだ。しっかり面倒見てやれよ」
「そんなぁ……」
亜紀はまだ子供の祐樹は話を聞いていても分からないだろうと話を続ける。
白井はAPOCのバッジを見ると秘書同様さらに顔色を悪くさせ、その時の検査報告を寄越した。
この手に精通している亜紀はその内容が偽装であることを見抜き、これ以上捜査に協力的でないようなら共犯でしょっぴくぞという警告をした。
そして、報告書隠ぺいを罪に問わないことを条件に、白井は観念した。
「お前の情報部が感知したエネルギーは、確かに白井の研究所から出たものだった」
「やはり……だが、そんな痕跡は何処にも見当たらなかったぞ」
「話によると、本田、新條、そして大倉が咄嗟に予備の制御プログラムで、突然変異を起こした謎のエネルギー体、アストライアを完全抑制したらしい」
その制御プログラムは六つのパズルで意味をなす。
亜紀はポケットから端末を取り出し、その写真を見せた。
黒と黄色のイチョウの葉のような形をした物体が円形の窪みにはめ込まれ、その中心にプログラムを解除するスイッチがあった。
「コレって……大倉さんの胃の中にあった物と同じ……!」
「なるほど……犯人の目的はコイツか。その為には三人が持つ制御プログラムのカギを手に入れなければならない」
「それで今回の事件を起こしたってことですか」
「だが、二人のカギは手に入れても大倉の持つカギは手に入らなかった。――そこで犯人はカギを手に入れるために身内から聞き出そうとしたわけか」
祐樹に視線を移せば、蒼斗の腕の中で驚異的な早さで静かに寝息を立てていた。大倉を呼ぶ寝言が時々聞こえ、父親が恋しいのだろうと目を細めた。
「だが可哀想だな……大倉はもう……」
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