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 ◆



 少女がその場にしゃがみ込み、声を上げて泣いていた。



 桐島家に引き取られてから一月が経った頃、蒼斗は学校帰りの途中で遭遇した。


「どうして泣いているの?」


 見て見ぬ振りをするのは彼の性分として許せなかったため、思い切って少女に近づき、声を掛けた。

 適度な距離を保ち、こちらを見下ろす蒼斗を確認した少女は、すすり泣きながら口を開いた。


「キーホルダーを落としちゃったの。お母さんからもらった大切なものなのに……探してもどこにもないの」


 時間的にはまだ夕方前とはいえ、辺りは薄暗い。

 街灯も建っているのは数本のみ。肉眼でこの中を探すのは至難の業というものだった。

 母親からもらったという執着心もあり、少女は見つかるまでいつまでも探し続けることだろう。


 蒼斗は、少女がキーホルダーを落としたとされる場所を訊ねた。

 携帯の小さな光を頼りにアスファルトを照らし、一緒に探す。蒼斗の手元の淡い光に少しの希望を得たのか、少女は嬉しそうだった。



 ――しかし、結局目的のものは見つからなかった。

 結果、少女を期待させるだけさせて落胆させてしまうことになってしまった。

 少女は、探しに来た母親に手を引かれながら蒼斗を睨み、未練がましそうに帰っていった。

 それは自分の思うように事が運ばなかったから怒るという、子供の身勝手な行為にしかなかった。


 けれど、蒼斗はこれほど自分の非力さ、不甲斐なさ……そして、黒セロファンが被さったような、濁りきった空を恨んだことはなかった。


 蒼斗は乞うように片手を天に伸ばした。



 あの空が晴れた時、一体どんな世界が待っているのだろう……?




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