‐
「祥吾は、僕を信じてくれるのか?」
「当たり前だろう。それに、この情報を元にしてもお前を犯人づける証拠が甘すぎる上に、動機がない。指紋の偽装など、局内の人間なら誰にでもできる。それにIDだってクロヘビの手に渡ったと先日お前の口から報告を受けているからな」
「局内って……っ、もしかして、祥吾は内部の人間だと疑って……?」
「俺がお前のことを何も分かっていないとでも思っていたか? 先日の一件や、近衛の話からして今回の一件が関係していないとは到底考えられない」
畳み掛けるように蒼斗に降りかかる災難。
関わる人間を洗ってみたところ、全て蒼斗がいなければ出世コースに入れた者たちばかり。偶然にしてはあまりにも出来すぎている。
「あまり疑いたくはなかったが、一連のことを考えるとそうも言っていられない」
「どうして……そこまで、僕を?」
「お前の家から治安維持局までは、交通機関を利用しないと長官の死亡推定時刻と合わない。さっき防犯カメラを顔認証掛けて検索掛けたが該当がなかった。客観的に考慮して、お前に犯行は不可能だと判断した。それに……身内を信じるのは家族として当たり前だろう」
「か、ぞく……」
この人は、いつだって信じてくれている。
目の前にある証拠を元に論理付け、結論を下しただけだというかもしれない。
されど、蒼斗にとってこの史上最悪の状況下に突き落とされても自分を信じてくれる人間がいるということが何よりも嬉しかった。
特機隊に捕まって連行されてしまうと、いくら祥吾と言えど重罪容疑者として指名手配された蒼斗は庇いきれない。ひとまず落ち着くまで安全な場所に身を潜めておこう。
その祥吾の提案を飲み、無難な山岳方面へと車を走らせていると、街との分岐点辺りで追いつかれてしまった。
「ここは俺が食い止める。お前は出来るだけ奥に逃げ込め」
「そんなことをしたらいくら祥吾もただじゃ……!」
「俺のことは気にするな。今は自分の身の安全のことを考えろ。きっと近衛が今頃動いてくれているはずだ、それまでの辛抱だ」
「近衛さんが……っ」
「早く行け!」
踏み込んでいたアクセルを外し、ブレーキを踏む。ハンドルを回し、山岳方面への出入り口を塞ぐように乱暴かつ正確に停車させる。
吸い込まれるような暗闇が左側に続き、怖気づく蒼斗を早々に降りるよう怒鳴ると、ドアを開けて蹴落とす。まさか祥吾に蹴られると思わなかった蒼斗はそのまま転がり落ち、土埃に塗れる。
上体を起こし、左手のグローブが目に留まる。近衛も手助けをしてくれている。……ならば、彼らを信じて逃げるしか自分にできることはない。
「ありがとう、祥吾……!」
「踏ん張れよ」
「……っ、祥吾!」
ふと先ほど見た夢の悲鳴を思い出し、とっさに振り返って呼び止めた。
「き、気を付けて……!」
言いたいことはあるはずなのに、時間もおしている中うまく言葉にすることができず、結局その言葉しか出なかった。
祥吾は少し可笑しそうに声を漏らすと頷いた。
背後からの無数の車のライトを頼りに、蒼斗は大きく一歩踏み出し、茂みの奥へと姿を消した。
残された祥吾はこちらに銃を構える隊員らを一瞥。
しばし車内留まったのち、ゆっくりとドアを開け、何もしない意思表示としてその場で手を上げる。様子を伺うように辺りを見渡すと、そのままの態勢でゆっくりと車から降りる。ヘッドライトが眩しく、眉間に皺が寄る。
「桐島隊長、あなたのしたことは被疑者逃亡の幇助にあたります。言い逃れはできませんよ」
「別に言い逃れするつもりはない。俺は確かに蒼斗を逃がした。勿論王に牙を剥くつもりはない。俺のしたことには、アイツが人を殺すわけがないと確証があるからだ」
祥吾は丸腰のまま、堂々とした立ち振る舞いで隊員一人一人を見る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます