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樫宮は治安維持局特別機動部隊長官。
威厳に満ち、私欲ではなく国の為に常に動いていた尊敬する上司は、蒼斗にとって憧れであった。
そんな彼が殺された。そして、その容疑が自分に――?
「僕は何もしていません!」
「ならば何故犯行に使われたとみられる凶器からお前の指紋が出た?」
「っ、そんな馬鹿な……!?」
「さらにお前のIDが使用されていた痕跡が残されている。それは一体どう説明する?」
「それは先日クロヘビの奴に盗られたんです!」
「盗られた? 仮にも隊長の地位を与えられていた人間が発する言葉じゃないな」
「僕は嘘言っていないです!」
治安維持局を去ってから一度も長官に会っていない。それなのに殺人の罪を着せられそうになっている……訳が分からなかった。
「本当ならお前なんぞこの場で殺してやりたいところだが、これも規則。大人しく来てもらおうか」
「身に覚えのないことに従うつもりは毛頭ありません。それよりも管理人さんん……っ、彼をどうしたんですか?」
「奴はお前を確保するという特機隊の命令――つまりは王に背いた反逆者だ。俺はその始末をしたまで」
「っ、なんてことを……!」
「お前なんぞを庇おうとしなければ、早死にすることはなかった。それだけのことだ」
反逆者取締り警戒が強まり、少しでも刃向うものがいればその場の個々の独断で決めることを許可されている今、副島は自分のしたことに何ら罪悪感も見受けられなかった。
「これ以上犠牲者を出したくなければ大人しくしていることだな」
「……副島君、君は確かに僕よりも優秀で、素晴らしい才能を持っている。でも、君は僕のことをあまりにも嫌悪しすぎた」
蒼斗は拾われ者という境遇の中、様々な人間の悪意をその身に受けてきた。
だから、微々たるものも、少しは感じ取れるよう身体が沁みついていた。
至るところから感じ取れる殺気――狙撃手だろうか。それにしては、あまりにも未熟すぎるのが手に取るようにわかる。
「君は僕が同行に応じようが応じまいが関係ない。どの道僕が逃走を図ったということを理由に殺そうとしていたんでしょう?」
流されやすい蒼斗も流石にそこまで馬鹿ではない。覚えのない容疑をかけられ、おめおめと殺されるような真似は、絶対にしない。
――目が暗闇でも対応できるようになった。
蒼斗は置き去りになったままのマグカップを窓に向かって投げ、外で待機する狙撃手の注意を引く。
案の定、現場慣れしていないのか宙に浮くマグカップに向かって弾道が集中する。 陶器が砕けるその音を好機と読み、蒼斗は投げ捨ててあった上着をわし掴むと飛び出した。
降り注ぐ銃弾の雨を紙一重で躱し、足場の限られた塀の上にギリギリ片足で着地――するはずだった。
「おわわ……っ!?」
ふらつく身体はその場に留まることが叶わず、外の手入れが行き届いていない植え込みに嘆かわしくも落下。
だが植え込みが幸運にも蒼斗の隠れ蓑となり、一瞬だけ彼らの目を誤魔化すことに成功した。
「蒼斗!」
見慣れた通りを全速力で走り、吸い込む冷気に肺が悲鳴を上げそうなところで一台の車が目の前で急停車する。
追っ手かと肝を冷やす蒼斗を驚かせたのは意外にも祥吾で、緊迫した表情のまま手招きすると車に乗せ、伏せているよう指示。
「祥吾、どうして……!」
「治安維持局内でお前が長官を殺したという情報が流れた。それから、特機隊含めた全ての執行部隊にお前捕獲の命令が下された」
「もうそんな命令が……っ、まさか、祥吾も……?」
「命令に従っていたら、わざわざこんな早朝に碌な装備なしに車飛ばしてお前を探しに来るわけがないだろう」
早鐘を打つ心臓がおさまらない。
警戒網がまだ張られていないルートを探り、車を走らせる祥吾の厳しい横顔。時折エラーが表示されると「くそっ!」という言葉が漏れる。
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