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嵐が過ぎ去り……世界が死んだような静寂がそこには存在していた。
時折聞こえるのは、燃えかけの木片がパチパチと軽快な音を立てて炭に変わり果てる悲鳴。
悲惨すぎる光景を突きつけられ、誰かの叫び声でついに現場は騒然とした。
野次馬たちの中には知人や恋人が中にいたようで、彼らは絶叫し、更地と化したそこへ、特機部隊員に止められるまで一目散に駆け出していた。
「っ、ただちに生存者の捜索を開始しろ!!」
生存確率ゼロの状況下で、顔に血の気をなくした部隊が蜘蛛の子を散らすように辺りを駆け回った。
彼らはひたすら銀行周辺だけでなく爆発による影響が出たであろう範囲全てをあらった。
――望みなど決して存在するはずのない、哀れとも思える期待を抱きながら。
結果、爆発に巻き込まれた隊員のほか数名の軽傷者と周辺建物の損害で事態は収拾した。残酷なことに、従業員含めた人質二十五名は結局発見されず、遺体すら見つからなかった。
問題はそれから数日経った頃のことだった。
蒼斗に対する命令違反と隊長義務放棄の異議申立てが上がったのだ。
内容は、銀行襲撃事件の際、命令に背き蒼斗が突入しなかったことについて。
他の部隊は命令に従い、爆破に巻き込まれ負傷者が発生した。
特機隊は常に王に、国に命を捧げなければならず、死と隣り合わせ。今日死ぬかもしれない、明日……下手すればあと数時間後かも。
人の上に立ち、先導するはずの隊長が人質の命よりも己の命を選んだ。
特機隊としてのプライドを捨て、臆病者に成り下がった、ただの裏切り者だ――と、蒼斗に反発した者たちは口々に訴えた。
確かにこの命は王と国の為に捧げられたものであるが、それよりも前に一人の人間として部下の命を危険にさらすと分かっていながら命令に従うだろうか?
蒼斗はあの時、脳裏に確かに突如思い浮かんだ、あの惨劇のビジョンを『視ていた』のだ。
あのまま突入していれば、彼だけでなく尊敬してくれる部下全員が焼かれ、吹き飛ばされていた。だから部下を引きとめた、それだけだ。
しかし未来を予知できた、など言えば小心者のつまらない言い訳だと嘲笑われるのは目に見えている。
当時のことを部下が説明しても、恐くなって咄嗟に体調不良という苦し紛れの言い逃れをしただけだ、と一蹴される始末だ。
弁明できないまま、異議申立てにより蒼斗は隊長の任を下ろされた。
――だが、実はこの申立てが祥吾の部下の副島たちが企てた、蒼斗を引き摺り下ろすための仕組まれた計画だった。
副島たちはただ、突如現れた記憶喪失の曖昧模糊な人間に、憧れの祥吾をとられ、さらにその積み上げられた努力を認められ功を奏し、隊長の地位を掴み取った蒼斗が気に入らなかったのだ。
――要は、醜い嫉妬だった。
解任後、そのことを風の噂で知り、蒼斗は驚愕と同時に事の概観を悟り絶望した。
期待に応えられるように、人一倍努力をした。
拾った甲斐があったと……価値を認められたかった。己の居場所が欲しかった。
その矢先、実に愚かで取るに足らない感情によって、ぶち壊された。まさに骨折り損のくたびれ儲け――対抗する気力すらも削がれてしまった。
このまま惨めに平隊員として属していても、きっと他の隊員の鬱憤の捌け口にされて終わることだろう。義父にも祥吾にも顔向けできない。
だから蒼斗は治安維持局を辞め、桐島家を飛び出し、ボロアパートに一人無味乾燥な一日を送る道を選んだ。
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