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長い御影の統一が続いていたとしても、オリエンスは完全に制圧されたわけではない。
政策と暴挙に反発し、己の自由を獲得しようとするものは少数派であるが存在している。
――中でも、オリエンスの軍事力に負けず劣らず、もしくはそれ以上の高度な技術を備えた戦闘員たちが揃う集団勢力は強大だった。
彼らは何処からともなく出現し、非公式の政策の場にも襲撃をかける。
先日の反王政集団一斉摘発及び処刑が行われた際にも、嵐のように乗り込んで処刑人全員を殺害した後、彼らを連れ去ったという話を耳にした。
目的の為なら手段を選ばない。
そんな彼らのことを、王政並びに治安維持局は、神たる王に仇をなし破壊と混乱をもたらす賊の意を込め『クロヘビ』と呼んでいる。
特徴のヘルメットを被った黒武装集団が現れると、その内の一人が真っ先に処刑人へと銃を向けて発砲。銃声で悲鳴が上がり、広場は騒然とした。
流れ作業のように残る者が一家を誘導し、奥に用意された車に乗り込んでいく。
全てが迅速かつ正確――無駄のない、実に綿密に計画されたものだった。
車を見送る形になり、我先にと逃げ去る雑踏の中、蒼斗は指一つ動かない変わり果てた処刑人を呆然と見つめていた。
あれだけ人を非国民と罵って殺めて来た人間が、あっさりと死んだ――処刑する側が一転し、クロヘビ……彼らの正義により『処刑』されてしまった。
なんと皮肉なことだろうか。
ふと、ちらつく気配に顔をしかめると、視界の端に一点の視線を受けた。
何となくそちらに顔を向けた。砂煙が巻き起こりシルエットのみしか、今は見えない。
――そして視界が晴れた時、世界が音を立てて止まったような錯覚を起こした。処刑人を処刑した『処刑人』が、
ヘルメット越しで顔は見えない。
しかし、彼は間違いなく蒼斗の姿を捉えていた。
突き刺すような視線は、獲物を狩る肉食獣を連想させる。確実に、蒼斗を――蒼斗の存在を吟味していた。査定といってもおかしくはない。
関わってはいけないと頭の中で理解できていても、足は地面に吸い付いて離れない。
逃げなくては……この場を一分一秒でも早く、消えなければ。
握られた銃の引き金に指がかけられた。
――だが、それを察する前には既に発砲されていた。頬にチリ、と走る裂傷を代償に、紙一重で額の命中を回避。西部劇の早撃ちを連想させる。
傷口から痛覚を脳に受け、けたたましく警報が鳴り叫ぶ――戦闘の、始まりだ!
数多に注がれる銃弾を物陰に隠れてかわしながら、徐々に距離を縮めていく。
彼の銃の腕は隙が見受けられないことから、相当戦闘に慣れていると伺える。
弾切れ時に仕掛けようにも、もう一丁がしっかり蒼斗を捉えている。真っ向から行けば即死、このまま闘っても命の保証はない。どっちに転がっても嬉しくない状況だった。
「っ、何なんだよアイツ……軍にでも所属していたのか?」
銃声が止み、死んだように静まり返った広場。
次には踵を鳴らす音と、銃槍を装填する音がした。やけに重々しい音が耳に届き、サッと背筋が冷えた。
これは、まさか――!
蒼斗は盾に利用していた遊具から一目散に離れた。なりふり構っていられない。
離れること数メートル。
蒼斗は頑丈に作られた遊具が木っ端微塵になる声を聞いた。衝撃波による強烈な追い風が背後から襲いかかり、吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。
砂埃で悪視界の中、蒼斗はよれよれのジーンズが擦過で破け穴があいてしまったことにショックが隠せなかった。かなり愛着が湧いていたのに。
「し、信じられない……改造銃でここまでの威力が……」
瓦礫と化した遊具の残骸。呆ける蒼斗はその場にへたり込んだ。今まで銃刀法違反者の取締りで改造銃を幾度も見て来たが、ここまでよくできたものを見たのは初めてだった。
「……へぇ」
銃身で肩をトントンと叩きながら、彼は笑ったような気がした。否、そうに違いない。新しい玩具を見つけたような、そんな歓喜にも似た声色。全身が粟立った。
――視界が開けた。
その先に見えた彼は、悠然と立っていた。ゆっくりと銃弾を装填しているのを見ながら、またあの銃捌きが飛んでくるのかと身構えてしまう。
果たして、あの銃弾についていけるのか?
そもそも、このまま戦う方がいいのか、逃げ切った方がいいのか?
「……え?」
そこで、目の前の光景が乱れ、ザザッと砂嵐が広がった――あの時のように。
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