第伍人『晩餐は血濡れの月とともに』

「さて、と……準備出来てるかい…ッて何してんの?」

「見、ての通り…ネクタイを、結んで……ですッ…。」

「いや不器用すぎだよ、首絞めて楽しいのかい?」


ブラッド』からの呆れた視線が痛いが仕方ないだろう。ネクタイなんてモノ、生まれてこの方久々にしたのだから…。


「まッたく、本当に君は面白い人だねぇ…?」


呆れつつ『ブラッド』がネクタイをするすると綺麗に結んでくれる。

何で彼は普段着てないはずなのに俺よりも上手いんだ……。

それにしても──…


「何で、正装なんです?」

「んー?」

「これから行く予定なのは晩餐会パーティではなく、殺人鬼同士の会合でしょう?」

会合ならまぁまぁ楽しいんだけどねぇ…。」


俺の疑問に『ブラッド』は苦笑して言う。

何だそのというような含みある言い方は…? いやそもそも殺人鬼の会合なのだから普通でないのは当たり前なのか…?

ブラッド』の後ろからひょこッと『眼球アイズ』が顔を覗かせる。もちろんの事彼も正装である。……服に着せられてる感ハンパないのは黙っておこう、俺は俺自身の命が惜しい。


「二人共準備出来た〜? 『ハンズ』が車出すッてさ?」

「珍しいねぇ、あの不良が車だなんて。」

「『ブラッド』は『ハンズ』と仲悪いよねぇ、かれこれ一番一緒に居る時間長いのに。」

「人の殺し方に文句は言わないけれどね、彼の殺し方はあまりにも乱雑すぎやしないかい……。」

「仕方ないよ、馬鹿だし。思考より身体が動くんだよ、莫迦ばかで救いようがないんだから。」

「……『眼球アイズ』が一番ボロクソ言ッてないかい?」


俺もそう思う。『眼球アイズ』が何気に一番その『ハンズ』という人に対して酷い。いや別に俺はまだ遭ッた事は無いんだが。


「おせぇぞテメェらぁッ!!!」

「!!??」

「あ、噂をすれば当人が来たね?」

「『眼球アイズ』、今は楽しむ場面じゃあ…ないよ? わざとなんだろうけどさ。」

「あ”ぁ”? ッて『ブラッド』テメェ、いい加減俺の釘バット相棒を血で汚すのやめろッつッてんだろうが!」

「汚されたくないんなら地面に釘バット相棒を捨て置いてくれるなよ。捨ててるから汚されるんだよ、いい見本だね全くもって。」

「捨ててねぇッて言ッてんだろうが!!??」

「はいはい、晩餐会パーティの前に喧嘩しない〜ッ!」


がイライラとした表情カオで現れた。

黒スーツのネクタイはどこぞのヤンキーがするように緩めてあるし、首元に光るのはジャラジャラとした銀のネックレス。獅子のたてがみの如き金色こんじきの頭髪に手首に付けたこれまた邪魔臭い音のなるブレスレット。耳にも痛々しいほど大量のピアスがしてある。

どこをどう見ても頭の悪い昔の不良ヤンキー(死語かもしれない)である。

遭ってそうそうに喧嘩をし始めた『ブラッド』と『ハンズ』の襟首をひょいッと掴み上げ、『眼球アイズ』がずるずると引き摺って歩く。


「ほら、『名無しノー・ネーム』君も早く来なよ。相棒を忘れずにね?」









──嗚呼あぁ本当に、今日の月はだ。不気味な程に。










そう考えつつ俺は『ブラッド』と『ハンズ』を引き摺る『眼球アイズ』のあとをついて行った。……もちろん贈り物ギフトで貰った武器相棒を持って。

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