第弍人『偏愛殺人にお気を付け』

『青少年殺人クラブ』に入居してから一週間。相変わらず住人は居たり居なかったり、自由気ままで俺が遭った事のある住人はあのの彼くらいのものだった。


「ん、なんで居んの?」

「…居ちゃ悪いですかね……?」

「いんや別に〜? ボクと居ると人を殺したくなるよ、ボクは我慢なんかしないから。」

「それは承知の上です。……訊きたい事があるんです。他の住人は居ないのですか?」

「え、まだ遭ってないのかい? あんなにに?」


本当に不愉快な事しか、目の前に居る彼の口は吐き出さない。人の傷を抉るのも得意らしい。

ふと目を合わせると彼はにやぁっといやらしい笑みを浮かべた。

…嫌な予感しかしない。


「そんなに言うなら連れて行ってあげようかァ? 此処に居る殺人鬼たちは自由気ままなのが多いからね〜。」

「……其奴そいつ等の性質にも、よります。」

「んー? 性質かぁ……色々と酷いね。眼球性愛オキュクロフィリアだの居るし。」

「オキュ…は?」

「オキュクロフィリア。眼球に興奮する変態さ。」

「うげぇ……。」


彼の口から出てきた言葉に嫌悪感を覚え、『うげぇ…。』と舌を出し、肩を竦める。

僕のその反応ににやにや笑いながら爆笑魔──もとい、悪魔──は手を引いて歩き出す。

まさかと思い、恐る恐る問う。それが彼の行動に火に油を注ぐ結果になったとしても。


「ま、まさかと思いますが……今から行くんですか?」

「ご名答〜良かったねーこれから話す予定だったんだ、君の事を。君から言ってくれるなんて、君は良い人だねぇ?」



──どうやら俺は墓穴を知らないうちに掘っていたらしかった。


***


「『ブラッド』ッ! …誰だい、そのッ?」

「やァお久し振りだね、『眼球アイズ』。彼かい? そうだな…名無しノー・ネーム』だよ。」

「あら、早く名前を付けてあげたら宜しいのではなくて?」

「それがねェ聞いておくれよ、『ネクロ』。まだ彼はんだ。だから付けたくてもあげられないんだよ、名前コードネームを。」

「はァッ!? 殺人鬼なのにぃッ!?」

「あらやだ、そうなの? 今時珍しい仔だわァ…。」

「だから今、あっちこっち連れまわしているのさ。早く諦めて堕ちれば、楽なのにさァ、止めないんだよ。ほんッと強情ッ!」

「貴方が言えないでしょう? 一番の強情なんだから。」

「確かに『ブラッド』が強情とは言えた立場ではないね〜。」


目の前に立つのは白をあかに染めた少年・『ブラッド』──この時初めて彼の名前コードネームを知った──と灰色の瞳が特徴の『眼球アイズ』、真紅のドレスを身にまとった『ネクロ』。いずれも『青少年殺人クラブ』の主軸たる殺人鬼メンバーである。

ブラッド』が遭わせてくれると言うからいったいどんな奇々怪々な人物なのかと思えば──は案外普通だった。そう、見た目だけは。


「彼らが特に殺人鬼だよ。右側の彼が通称『眼球アイズ』。『眼球性愛オキュクロフィリア』からコードネームを取っているんだ。そして左側の彼女が『ネクロ』。死体好きの『死体性愛ネクロフィリア』なんだけど『ネクロ』として動いてる殺人鬼さ。」

「どーもォ、『眼球アイズ』と呼んでくれてかまわないよ。宜しくね、『新人ニュー・ネーム』?」

「宜しくお願い致しますわね? わたくしは『ネクロ』。呼ぶときは名前コードネームでかまわないわ。…ねェ、この辺りに良いカンジの死体、無いかしら。前のは少し飽きてきたのよねェ…。」

「嗚呼それならわれ貴君きくんの眼球が欲しいなァ? さっきから欲しくてたまらないんだよ。」

「……なんて言うか…『青少年殺人クラブここ』に見合った方々ですね…。」


二人の『名』を聞いて嫌な予感はしていたが…やはり殺人鬼と呼ばれる所以ゆえんか、この二人も随分ぶっ飛んだ思考回路をしているらしかった。


「まぁそうだねー……君は此処ここの殺人鬼たちとね。──これからの為にも。」

「ぇ…?」

「あーそう云えばそろそろ、かも?」

「嫌だわ、あの野蛮人共とまたり合うなんて。」

「その割には『ネクロ』、顔が酷く嬉しそうだけど?」









──どうやら此処にはまともな常識を持つ人物は、存在していないようだった。──

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