第参人『嗤う鬼と殺人衝動空想論』

『なァなァ何でなんてのがあると思う?』


唐突に目の前の少年カレは訊いてきた。彼からの質問や問いかけは日常的に行われるが──


「……どうして俺にそれを、訊くんです?」

「君が僕らの中で常識を所有しているようだからさ。僕らにはもうからねェ?」

「……でしょうね。…抑圧する為の、抑止剤ストッパー、ですかね。抑止剤を理性とするなら、殺人衝動は欲望でしょう。」

たとえが上手いねェ君は。でもその理論で行くのなら、君の場合はどうなるんだい? 殺人衝動が抑止剤に負けてるのかい?」

「んー……其処そこは、俺にも解りませんよ。んですから。」

「まァそうだね? けれど──だろう?」


俺の言葉の続きをするりと奪い取って目の前の彼は言う。至極、楽しそうに。血に濡れたその顔で、言う。


「苦しみはいつしか当たり前となるだろう。当たり前はいつしか苦しみとなるだろう。自然が四季を繰り返すが如く、人もまた、生と死を繰り返す。その意味は、真理は、ことわりは──……あるんだろうか? ねェ、『名無しノー・ネーム』くん?」

「……気になるなら、これからでも探せば良いじゃないですか。──少なくとも、貴方には仲間も常識も、あるんですから。」

「……ッふ、あはッはッはッ! そうだね、その通り! やっぱり君は面白いなァ、飽きないよ本当に! あははッあはッは、はははははははははははははははははははははははッ!」

「……笑い過ぎでしょう…。」


ケラケラと彼は笑う。俺は彼が何を見て何を感じてきたのかは、知らないけど。彼を見てこう思うだろう…。








『哀しい殺人鬼』と。









その称号の意味も、真意も、悟らせてはやらないけれど……──。

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