銀風巻き起こす恋愛少女

 空が茜色に染まる。

どれくらい時間は経ったのだろう。わたしの手は氷のように冷たくなっていて、持ってきたカイロも役に立たない。

こんな寒い日に屋上になんて出る必要は無かった。人を待つのなら暖かい教室で、せめて階段の途中で待っていても良かった。

ホントにわたしってバカだよね、と一人呟く。

来るかもしれない、来ないかもしれない彼をわたしは待ち続けていた。

鼻水が垂れてくる。寒さで顔の感覚も鈍い。

後10分で来なかったら絶対に帰るから。たとえ11分後に彼が来たとしても、わたしはぜったいに帰るから!

そう心に堅く誓って、震えながらに彼を待ち続ける。

「ごめん、待ったかな!?」

後ろの方から声がする。わたしはぐじぐじと鼻をこすり、多分いつも通りの顔をして振り向く。

「何か用だった。てか、なんで屋上になんか呼び出したの!?」

そんな当たり前な質問をされても困る。

「寒いから端的に言うね! わたしと付き合ってほしいの!!」

「ごめん、聞こえない!!」

気付かない内に風が強くなっていたみたいだ。張り上げないと互いに声が聞こえない。

「だから、付き合ってほしいの!!」

彼は眉間に深く皺を寄せる。聞こえてないのか、それとも迷惑だったとか?

わたしは風が強く吹き荒れる中、彼の反応を待った。彼との間に漂う沈黙が、厳しい寒さよりも辛かった。

彼はしかめっ面を見せたまま、わたしの傍に近寄ってくる。

わたしと体一つ分、あと一歩で届く距離。

彼は怒鳴りつけるように言う。

「何も聞こえないんだけど、ここじゃなきゃ駄目なのか!?」

ここじゃなきゃいけない理由は何もない。どんどんと強くなる風の中じゃ互いの声も伝わりにくくなっている。

わたしは多分イライラしていたんだと思う。随分待ったし寒いし、どれだけ勇気を振り絞った言葉も彼には届かない。

「あーもう! ホントむかつく!!」

言葉が届かないなら、行動で示すしかないじゃない!

わたしは少し背伸びして、彼の首に腕を回す。

彼は少し驚いた顔で、何か言いたげだったけど気にしない。それどころじゃない。

腕を引き寄せると丁度良い位置に彼の顔が来る。

多分、寒すぎで待ちすぎて暴走していたんだと思う。

一瞬の出来事だった。体が離れた後、彼は呆けた顔をしていてわたしをぼんやりと眺めているだけだった。わたしはと言うと、魔法が切れたように冷静になり、風の中にきらめく雪が綺麗だななんてことを考えていた。

わたし、今キスしたんだっけ。

寒さで鈍った頭の中で一つ一つの事実を積み上がていくと、とてもわたしとは思えない大胆な出来事に熱がこみ上げてくる。

お前、もしかして俺にキスした?と言わんばかりに自分の唇の場所を確かめる彼。

彼の気持ちも確かめず、わたし一体何してんだろ……

気まずくて、でもどこに行く事も出来なくて、寒くて熱い。どうしようもなさがぐるぐるとわたしの中で渦巻いている。

彼が近付くのが分かる。正直、彼の顔を見るのが怖かった。さっきのしかめっ面が頭に過ぎる。

「声が聞こえないなら仕方ないよな」

彼の腕がわたしを抱き寄せる。

予想もしなかったと言ったらウソになる。ちょっぴり期待していた事態にわたしは彼の顔を見上げる。

冷たく厳しい夜風の中で、繋がり合った心が二人を暖かく包んだのだった。

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