ときめかない少女の恋愛観
「なんで欲しいものの為にこんなに頑張らないといけないんだろう」
不満げに頬を膨らませ、そのついでか彼女はメロンソーダをぶくぶく泡立てている。帰りがけのハンバーガーは夕飯が食べられなくなるから断りたかったが、放っておくとまた面倒なので仕方なしに付き合っていた。
「また突然、どうしたんだよ」
訊かれたから答える体裁が欲しかったのだろう。俺が会話に水を向けると、姿勢を改めて食い気味に言葉が続いた。
「私がどれだけ愛想良くしても、どれだけおしゃれしてもさ。元からかわいい子には敵いっこないし、そういう子に男子はなびくから努力しても無駄だって思ったの」
口を尖らせて、拗ねた口調で言い訳をする。目が充血しているのはアレルギーではないのかと理解する。
「またフラれたのか」
少しストレート過ぎたかと体を強張らせたが、不満げにしつつも彼女は視線を逸らしてため息を漏らす。
「フラれてなんかないし。コクっても無いんだから」
俺は地雷を踏んでいないことに少し安心した。それと同時にいつもと違う雰囲気に気づく。
「珍しいよな。お前がため息吐くなんて」
「ーーーーなんだかさ。枯れてるって思われるかもしれないけど、視線が合ってドキドキしたり、笑顔を見てときめいたりして、恋したいって思うのすごく疲れたの」
そう言ってまた彼女は深いため息を吐く。これで何度目かの恋愛相談になるが、ここまでナーバスになっている姿をみたことはない。
「告白してないなら脈がない訳でもないんだろ?」
彼女は首を振って、俺の言葉を否定する。
「脈が無いとかじゃないんだ。なんと言うかさ、努力してその子に可愛さで勝ったとして、私は一体なんなのって話」
「よく話が分からないんだけど?」
「つまりはさ、恋愛って頑張るものなのかな?」
恋愛。その人の事を好きになって、一緒にいたくて、笑顔にしたくて、だからこそその人に見てもらうために努力する。
「恋愛で大切な事って、自分を見てもらうことなの、その人を笑顔にすることなの?」
「どれかひとつじゃなくて、それ全部が大切なんじゃないのか?」
「それは違うと思う。その人が一緒にいたいって思う人は私じゃないし、私がその人に成り代わるなら、それはもう私じゃないから」
だからこその疲れたの一言だった。彼女はきっとこれまでにたくさん思い悩んで苦しんで、俺と話をする度に自分の事を考えて、この答えにたどり着いたんだろう。だから、俺には答えるべき言葉は何も見つからなかった。
「私さ、恋愛ってどんなものなのか考えたの。それでさ、思ったことがある」
彼女は俺の目をじっと見つめて、でも少し逸らして言葉を繋げる。
「恋愛ってお互いに嘘を吐き合うことなんだと思う。嘘と本当の境界線がなくなることもあるんだろうけど、でも互いに嘘つきだってことがわかったとき、その関係は終わるんだと思う」
俺は恋愛で悩み苦しむ度に可愛く、綺麗になっていく彼女を思い出す。
「私がずっと欲しかったのは、たぶん君なんだと思う。二人でいて、ドキドキしない関係。二人で本当の自分でいられる関係」
彼女の告白に俺はなんの動揺も感じなかった。ただ、当たり前にそこにあったものを再確認したような安心感があった。
「君がいつも面倒だと思いながら私の話を聞いてくれてたことは知ってたから。そういうとこ、たぶん優しいんだと思うよ。私は思わないけど」
「俺にも理想がない訳じゃないけど。化粧して変わってくお前を見て、ほんの少しだけ相手の男を羨ましく思ったことがあったかも知れない」
多分、俺の好きなアイドルと同じような感じになっていた時だと思う。思いの外、似合うんだな程度に考えていた。彼女は俺の知っているいつもの調子に戻って軽口を叩く。
「大丈夫。君の理想はもう分かってるから」
ありのままの私。ありのままの俺。
多分、恋愛の形は人それぞれなんだろうと思うけど、惚れた腫れたの話で変化を続ける彼女を俺はずっと特別な人だって想い続けるのだろうと思う。
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