負けず嫌いの恋愛方程式
僕が彼女について思うとき、真っ先に思い浮かべるのは半泣きで睨みつけてくる顔だった。
「ぜぇっったいに負かしてやるから!!」
通算15KO、彼女が操作しているキャラクターをボコボコにするのもいい加減に心苦しくなってくる。
「もういいよ。また今度にしようよ」
「勝ち逃げはダメ。卑怯だよ!」
と言うことは、彼女が勝つまで戦い続けなければならない訳だが、普通にやって僕が負けることはないし、わざと手を抜いて勝たせてあげても彼女は許さないだろう。
「えっとね、まずは自キャラがやられないようにすることが大切だよ。無闇に突っ込んでいっても玉砕するだけだから」
「攻撃は最大の防御でしょ? もう一戦、早くやるよ!」
こんな何時でいつまでもロマンに拘り、僕の言葉に耳を傾けない。そして、これは勝つまで続く。
悔し涙がいつも僕の思い浮かべる彼女の姿であり、今目の前にいる彼女でもあった。
「なんで、私はっーーーー!!」
僕たちは大学の掲示板の前にいる。そこには一面の紙が貼り出されており、整然と並べられた数字に訪れた高校生たちは様々な表情を見せる。
僕はただただ困惑していた。
彼女の八桁の番号ははっきりと掲示板に書かれていた。だから、彼女が涙を流す理由なんてどこにも見つからないはずだった。
「まあ、落ち着いてよ。君は受かってるんだから、何も問題はないでしょ?」
「問題ありまくりだよ! なんで私だけが受かってるのよ!!」
彼女は声を荒げながら僕の胸を叩く。
確かに僕は落ちてしまった。でも、それは僕にとってはあまり問題ではない。
第一志望の学校は受かっているし、この学校は僕にとってレベルが高い。はっきり言って記念受験のようなものだった。
でも、彼女は泣いている。
「別々の学校に通うことになるけど、問題ないよ。これから遊べないなんて事もないし、会おうと思えばいつでも会えるんだからさ」
僕は彼女に対して、慰めの言葉を重ね続ける。
落ちたのは僕なのに、なんでこんなことをしているんだなんてことも頭に過るけど、昔っから変わらないことだからと思い直す。
「だからさ、また会ったときにお互い知らないことを語り合ったら、それもまた楽しいことだと思うんだ」
彼女は黙って僕の話を聞いている。多分、もう大丈夫だ。
「今日は合格のお祝いをしようよ。きっとみんなもそわそわしながら待ってるからさ」
僕がそう手を伸ばしたとき、彼女は赤くなった目で僕を睨み付けた。
「私ね、負けることが大嫌いなの」
彼女の真剣な声色に僕は動揺する。今さら何を言っているのか。
「正直、今日は合格して喜べると思ってた。ずっと張り合って勉強して。その結果ですっきりと踏ん切りがつくと思ってた」
彼女の目に再び涙が滲む。僕はそれを拭いたくなる気持ちをぐっと抑え、彼女の言葉に耳を傾ける。
「だけど、ダメだった。どうしても私は自分に嘘がつけない」
彼女は襟元を掴み、僕を近くに引き寄せる。
気づいたときには彼女の瞳は目の前にあって、唇には熱い感触が残っていた。
「私は絶対に負けたくない! 絶対に貴方を惚れさせてみせるから!!」
彼女の宣言は喧騒の中に消えていく。でも、僕の中に深く刻み込まれる。
恋愛は始めに惚れた方の負け。
顔を紅く染め上げて僕をじっと見つめる彼女。
そんな彼女に僕もどうしても負けを認めたくなくって。
二度目のキスは、僕の気持ちが伝わるように交わしたのだった。
練習用短編集 桜庭優希 @RikkaSakura
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