あくる日の六月より

榎本知音

プロローグ 焦げた銀色の空の下

1

 全てが白い空間は静かな時がよく似合う。

 真っ白なベッドは空間に溶け込み、その上に寝ている者が浮いているように見えた。

 頭を右に向けると外が見えた。寝ているから位置的に上のほうしか見えないけれど、きっと、今自分の目に映っているのは空だろう。

 銀色で、ところどころ焦げていて、どこか寂しく感じさせる。


 寂しいってなんだっけ。


 すうっと頬に何かが流れる違和感があった。

 それが重力に誘われて、寝かされているベッドのシーツに辿り着く。それとほぼ同時に、閉め切っていた空間のカーテンが静かな音を立てて開きだした。


 『いつもの子』だ。


 銀色から白に変わった視界に何も感じない。表情はなかったと思う。

 それと同じくらい、『いつもの子』の話はいつもどうでもよかった。言っている意味も分からないし、それに、『いつもの子』っていったい誰なんだ。


 そんな心の奥の質問は届かない。

 『いつもの子』はいつも通り、意味不明なナゾナゾを許可なく出してくるのだ。


「ねえ。どんなに努力しても戻ってこなくて、逆に努力した分無くなっていく『もの』って何だと思う?」


 ......。


「時間だよ。時間」


 ............。


「なんでそんなに不思議そうな顔をしているの? ......まあ、私が考えたナゾナゾだし分からないのも無理ないか。......あのね、私、あの頃に戻りたいの。なんでだと思う?」


 ..................。


「またその顔? ......私にも分からないの。でも、あの頃に戻りたい。それだけは切実に思うの......」


 ......。


「私、帰るね。また来るから。じゃあね」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る