第15話
風は吹き荒ぶ。空気は乾き、砂と化したこの世の全ての屍が積み重なる。足の下には、人々が築いてきた巨大都市が眠っているというのに、時々降る豪雨が高層建築の頭部を洗い流すときくらいしか、その面影は浮かんでこない。地形は日々変わる。
地面から突き出した建築物の尖端に衝突しそうになり、繭は大きく弧を描いた。止まり切れず、大雨で流されて来たと思われる、横倒しになった人型の巨大彫刻の下に潜り込んでしまった。
繭は船底から太い爪を出して砂をかいた。それから、がくがくと自在に折れ曲がる関節を持つ細い脚を伸ばし徐々に這い出す。そして、巨大彫刻を見下ろして立ち上がると、その細く長い脚で踏み越えた。船内が大きく傾き、また砂の上を滑り出す。
「速いね、あっという間だ」
エリが言うと、ノゾミは頷いた。
荒涼たる大地に、我楽多屋のニナは、ひとりぽつんと居座っていた。考え事をするには適当な石に、脚を組んで座り込み、膝の上で頬杖をついている。近くで見ると、長い手足が、豪雨からかなりの時間が経っていると感じさせるように、ねじれて絡まっているようだ。
焦点の定まらぬ眼でぼんやり見ている足下では、雨で露わになった建造物の一部が大きくひび割れ、錆びついた骨組みが枝のように伸びていた。我楽多屋は跡形もなく、繭の中から見るアユムには、ここがどこなのかも分からなかったけれど、スピーカーからは相変わらずサイレンが響いている。繭は、ニナの前に傅くと、割れるように開いた。
乗らないか──
ノゾミが問うと、ニナは顎をしゃくって船内を見た。人形を抱きしめ、飛行物体が去っていく空を眺めるアユムの姿がある。ニナは不機嫌そうにくちを歪めて繭に近寄ると、動かぬ人形を蔑んだ眼で見下ろし、アユムの後ろで黙って手足を縮めた。
ああ、花の香りだ。
ニナはくちを歪めたまま憂えた瞳を閉じて、すんっ、とひとつ息を吸った。
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