初対面

奴と初めて戦った日の夜。外は真っ暗。灯りがあっても手元が見えづらい上に、拮抗した奴の力による疲労で、体が鉛のようになっていた。並の兵士ではないことは、身に纏っている鎧が主張している。だからこそ、自らが率先して相手をしていたのだが、細身の剣であるというのに、一撃一撃が重い。数で勝負をしている自らの獲物では、それらを流すのにすら、通常の兵士よりも強い力が必要とされた。結果、防戦一方となってしまったので、相手を倒すことも死ぬことも出来ず、疲労だけが残る羽目になってしまったのだ。次回に向けて対策を考えるべきではあったが、これ以上灯りを使うのは無駄だろう。そう判断し、消そうとした瞬間だった。

「おや、もうおねんねの時間なのかな?」

声こそ聞いていなかったものの、殺意の種類で、誰であるのかを察した。昼間の騎士だ。見えづらくとも分かるくらいには、堂々とソファに鎮座している。帯刀はしていないらしいが、どこに武器を隠し持っているかは分からない。警戒しながら、体勢を構えた。

「お前の国では、違うのか」

奴は、そうなんだけどと同意しながらも、困ったように唸っている。

「そんなに気を張らないでよ。此処は戦場じゃない。帯刀してないことは、そちらからでも分かるはずだろう?」

殺意を抱いている人間が何を言ったところで、信用しろという方が間違いだ。いざとなれば、腕も、脚も、はたまた声も、相手を倒す武器となりうる。剣があるかないかは、然程問題ではない。

「侵入の手段と、目的は何だ」

「簡単だよ。僕の膨大な魔力を用いて、君に会いたいと思った。それだけ」

平然と口にした奴の言葉が、上手いこと自分の脳内へ入ってこない。膨大な魔力が必要な時点で全く簡単なことではないし、そもそも、どうして自分へ会いに来なければならないのだ。友人や恋人ならまだしも、自分と目の前の人間は、つい数時間前まで殺し合っていた関係である。面倒な相手だから闇討ちで殺してしまおう。そんな目的の方がまだ理解が出来た。

「意味が分からないって顔をしているね」

「そんな理由で、わざわざ敵地に侵入する馬鹿がいるか」

「幾らでも馬鹿にしていいよ。僕はね、君と話をしに来たんだ」

「話すことなんて何もない。帰ってくれ」

「君は強いね。あの戦い方、一体どこで、誰に教えてもらったの?」

殺意は未だ消えていなかったが、その目は純粋な興味に溢れていた。ため息が出る。

「それはつまり、お前も自らのことを話すってことでいいんだな?」

「うん。僕に話せることなら。でもそうだ、ワインとかってある?」

続いた明るい言葉に、俺は首を横に振った。

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