予選三日目④

『ゴアァァァァァァァァァァ!!!』

風神と雷神の雄叫びが響く。


「…30秒か…やってやるよ!」


正直に言ってラインは30秒守り続けること不可能に等しいと思った。

自身は回避やいなすことで捌ききっていたために身を呈して守るというのは今までとははるかに難易度が上がる。

だがアシスがこれを切り抜ける策があるらしい。

なら信じて30秒稼いでやるのが男ではないか。


「いけ!風神!」

「倒せ!雷神!」


双子の命令によりアシスとラインに狙いを定めた二神はその両腕を叩きつける。


対するラインは自身の得意とする白魔法強化型で風耐性、雷耐性の付与を可能な限り行う。


たとえ神器が相手だとしても付与魔法はそれなりに力を発揮してくれる。


だがあくまで“それなりに”だ。


ズドォン


「ぐあぁっ!!」

まるで地震がおこったかのような一撃を耐性があるとはいえもろに喰らう。


一撃でこのレベルなのか!?


ラインはその威力に驚愕するも次の対策を講じる。


30秒耐えきることは不可能ではない。

だがライン自身、耐えきれると思えなかった。


それでもラインは立ち続ける。


風神と雷神のいたぶる様な攻撃をもろに負って。


おそらくライン本人にとって生涯で一番長い30秒が経過した。



「…ありがとう…」


「!?…終わったのか!」


アシスの為の時間稼ぎが終わったことに安堵するライン。


だがラインの身体は限界を迎えていた。


「…あ……れ?」


その場に倒れるラインは何とかして立とうとするが思うように身体が動かなかった。


「ありがとう…ラインのおかげだ」


そう呟くアシスに返事を返そうとするもそれすら出来なかった。


「だからちょっと休んでてくれ…すぐに終わるから」


アシスはラインにそう告げ二神の元へ歩み寄っていった。



「やった!一人倒したぞー!」

「やった!あと一人だ!」

「もう降参しろー!」

「そうだそうだ!」


双子の舐めるような会話はアシスにも聞こえていたが気にとめることすらなかった。


アシスはアシスでなかった。


二神の元へたどり着いたアシスは左目を一度閉じ魔力を左目に集中する。



「「やっちまえー!」」


双子の命令により二神がアシスに襲いかかる。


そして



二神はアシスに攻撃することなく消え去っていた。



「「…えっ!?」」


二神が突如消え去ったという事実が信じられなくて双子は魔力の枯渇を疑った。

勿論、原因はそれではない。


アシスは両腕を上げて

そして左目をあけ双子を見据えていた。


サヒルとソヒルは恐怖を感じた。


まるで死神に睨まれているような眼差し。


アシスの黒目は真紅に染まっていた。



「……これで一割か…」

アシスの呟きを聞こえた者はいなかった。




ラインは今の一瞬を見ることができていた。


その一瞬が信じられないでもいた。


アシスは二神の振り上げた拳を


両手で“受け止め”炎で包み込み

圧縮し火の粉に

そして圧縮された火の粉を握り潰していた。


炎で包み込むことはまだあり得る。

だが神器そのものである二神を片手で防ぐこと

二神を圧縮し握り潰すこと


これは本人が“神器”またはそれらを越える存在でないと不可能ではないか


そんな思考がよぎるが


ラインはその思考を考察に繋ぐことができずに



気絶した。



その後、試合は双子のリタイアで勝負は決した。

サヒルとソヒルはあの眼差しを受けて腰が抜けていた。

あのまま続けていても勝機はなかっただろう。


最終結果、アシスとラインは滑り込みで11位と12位を勝ち取った。



そして三日目が終わり。

一年生の部は閉幕となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る