灼剣の転入①

ワアァァァ!!!

剣戟と歓声が木霊する。

ここは王都アトレティアの中央コロッセオ。

年に1度開催される勝王杯の決勝が今、行われている。


「ああっと!!この構えは瞬波の構えだ

ぁ!!これが決まれば負けは確実!どうする!?灼剣!」

灼剣と実況に呼ばれ炎を纏った剣を持つ少年ーアシスはその構えを視て技を使おうとする大男ーバライグに向かって一直線に駆けた。

「魔力が整う時間を狙ったー!!果たして間に合うか!?」

「遅い!」

数多くの試合、そして実戦をこの技で切り抜けた

(勿論、この技だけでは戦争を生き残れる訳が無い)

バライグは勝利を確信し剣を振るおうとする。

この技は剣に魔力を込めることで剣に鎌鼬の力を与えると言うものだ。

鎌鼬となって振るわれる剣筋は相手の動きを制限し最終的に必中の状態にする。

その場にいる全ての人間はその映像を予測した。

バライグは事実それだけで勝ち上がり九連覇を達成している。


しかしその剣は振るわれなかった。

バライグが剣を振り下ろすその瞬間を狙ってアシスは駆けながら地面を起点とし魔法で火球を放った。

「ぐっ…」

目の前に現れた火球にバライグは体勢を崩し魔力も乱れる。

何とか踏ん張るもののアシスを見失う。

「灼剣が消えたー!!」

実況の叫びと観客のざわめき、分からないことも無いが当事者には少しばかり邪魔である。

「…何処へ行った?」

バライグは思考を凝らすがそれも一瞬のこと。

視界の良いコロッセオで死角となるのは背後か空中、バライグは背後への足払いから空中へ目掛けて滝登りの様に剣を振り上げる。

バライグは始めからアシスが空中に居るのは分かっていた。

アシスが空中から全威力を込めて放とうとする一撃も予想していた。

故にバライグは体をねじるように足払いし体のバネを使って最大の威力を持ってアシスの灼剣に迎え撃った。


剣戟の音は鳴らなかった。


当たる前提を持って振るわれた剛剣は確かに炎でできた剣に当たった。

しかし炎を纏った剣では無かった。

剛剣は虚しく空を切る。

バライグに絶対の隙が出来る。

それを逃すようでは決勝には上がれない。

体でバライグの視線から隠していた本命の剣を喉元に突きつけ勝利条件を満たす。


「勝者、アシス!」

審判が決着を告げる。

それをきっかけに会場は大きな歓声に包まれる。

無秩序な叫びが試合をした二人に降り注ぐ。

「なっなんと!第十回勝王杯優勝はアシス選手!バライグ選手の十連覇を防いだー!!」


「…負けたか、私も平和ボケが過ぎたかな?」

自嘲気味に呟くバライグに

「いえ俺が研究したからです。平和ボケはしてないかと。」

とアシスが返す。

「研究されても勝つことが強者の務めだ。私は残念ながら果たせなかったが…。それはともかく、見事だ。優勝おめでとう。」

「ありがとうございます!」

恭しく一礼するアシスに向かってバライグが提案する。

「アシス君、君は軍に入る気は無いか?」 

自身に勝ったアシスは貴重な戦力だろう、

しかしアシスにも予定というものはある。

「俺は軍に入る気はありませんが学園に入学するつもりです。」

「そうか…学園ならまた機会はあるだろう。そうだ私が国軍推薦を書いてやろうか?」

この提案にアシスは驚いた。

「…良いんですか?」

「良いも何も軍部統括者の私に勝ったのだ。これぐらいのことを受ける権利はあるよ。」

この都合の良い提案にアシスは乗っかることにした。


これがアシスが転入することのあらましである。

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