komencas 花吐き少年と、虚ろ竜
女王と竜骸
教皇庁にある
巨木のような
そんな回廊の奥にある祭壇にマーペリアは立っていた。
祭壇に立つマーペリアは
「教皇が大病で
翠色の眼を喜色に輝かせ、マーペリアは隣にいる少女を腕で示す。
白銀の翼を
「私たちを
マーペリアの力ある言葉に、人々は歓声をあげる。だが、彼の隣にいる少女は
マーペリアは父との長年の夢を実現させようとしている。
1つは母の故郷である中ツ空に行くこと。そしてもう1つは母を殺した銀翼の一族を倒すこと。
その2つがもうすぐ叶う。
虚ろな眼差しを向ける少女に微笑みかけ、マーペリアは歌を奏でる。
それは遠い昔に、母が自分に歌ってくれた子守歌でもあり、ヴィーヴォが目覚めない自分に紡いでくれた思い出の歌でもある。
人々は緑の二つ名たるマーペリアの歌に耳を傾け、静かに涙を流している。
マーペリアは喜びに包まれていた。
長年、暗闇の中で過ごしていた人々を明るい世界に連れていける喜びに。
中ツ空を支配する銀翼の一族を倒し、水底と中ツ空を隔てる
父と母のように、二つの世界に引き裂かれる者たちはもはや存在すらしない。
水底の生命は虚ろ竜たち滅ぼされるかもしれない。だからマーぺリアと教皇ははそうなる前に、選ばれた人々のみを中ツ空に連れていくことにした。
銀翼の女王を使って――
それが動くと父から聞かされたとき、マーペリアは驚きを隠せなかった。そして、銀翼の女王が今もなお『生きている』ことを彼は教えてくれたのだ。
銀翼の女王の
彼女の記憶は、蒸気で動くその機械に記録されているというのだ。
そして色の一族たちは、その力を持って代々銀翼の女王を復活させようとしていたも。銀翼の女王を復活させたものこそ、この水底を治めるにふさわしい存在だということも。
その女王の魂をヴェーロが引き継いでいることもマーペリアは父から教えてもらった。
それは銀翼の一族の娘が夜色であったポーテンコを求めてやってきたことから始まった。
父は封印されていた銀翼の女王の魂を、降りてきた虚ろ竜の娘へと託したのだ。
かくして彼女は生まれ変わり、再び銀翼の一族として生を受ける。
花吐きヴィーヴォの恋人として、彼女はこの世に生を授かったのだ。
回想を終えて、マーペリアは眼を開く。
マーペリアの眼の前には、薄い水晶の
ここにかつて銀翼の女王の魂は封印され、それは歴代の教皇のみが知ることのできる秘密でもあった。
その銀翼の女王を復活させる機械がマーペリアの眼前には並んでいる。通路の脇に並ぶ歯車の水槽を見つめながら、マーペリアは通路の最奥に置かれた
「素敵だよ……。オレの女王様……」
銀糸の髪を満たされた水に揺らめかせ、ヴェーロは水槽の中を漂っていた。虚ろな眼をマーペリアに向ける彼女の体には、無数の管と歯車が取りつけられている。
「さぁ行こうヴェーロっ! 君の一族を皆殺しにねっ!」
マーペリアの
ヴェーロの唇から銀色の気泡が吐き出される。彼女の虚ろだった眼は苦痛に彩られ、声にならない悲鳴をあげようと大きく唇を開く。
嗤いながらマーペリアは涙を流す。なぜ自分が泣いているのか、マーペリアには分からなかった。
長年の夢が叶った故の喜びの涙なのか。苦しむ眼前の少女とこれから死を迎える友人を悼むために流されている涙なのか。
それとも――
「オレはどこに行こうとしているの? 母さん……」
疑問は呟きとなってマーペリアの口から零れる。
その言葉に応えてくれる者はいなかった。
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