Mermaid 竜と、人魚 

朽ちた花

 腐った肉の香りだった。

 いその香りと、生臭い海風の香りに混じって、腐りかけた人の香りがしたのだ。メルマイドは薄紅色の眼を顰め、香りの元を見つめる。

 それは砂浜に打ち捨てられた生ごみだった。腐ってヘドロみたく溶けた皮膚にはうじがたかり、凸凹でこぼことした皮膚の内と外を行ったり来たりしている。

 海に流れ着いた流木のごとくそれの体は痩せ細り、蛆のいた肌は今にも体からずり落ちそうだった。もうずり落ちて、純白の骨が見え隠れしている場所もある。

 けれども、それの胸はかすかに動いていた。腐りかけた唇から、それはかすかに息をらしていた。

 大きく落ちくぼんだ銀の眼がメルマイドに向けられる。

 そしてそれは、優しくメルマイドに微笑んだのだ。


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