星空の恋人たち

 灯花に囲まれながら空を舞う少女と少年を、木製の鹿に乗ったポーテンコは静かに眺めていた。その眼差しは、蒼い地球にらされどこか寂しげにみえる。

「また、私たちは繰り返すのか?」

 微笑み合う2人を見つめながら。ポーテンコは眼を伏せる。彼は星空を仰ぎ、小さくつぶやいた。

「また、私を連れて行ってはくれませんでしたね。私は、ずっとあなたのことをおもっていたのに……」

 その声に応える者はない。彼をなぐさめるように、空の星々は優しく瞬く。かつて彼らを灯花に変え導いていた自分が、今は彼らに慰められる立場になっている。

 その月日の残酷ざんこくさが妙におかしくて、ポーテンコは苦笑をらしていた。

 彼女に会ったことで自分の人生は変わってしまった。

 愛しいひとは空へと去り、自分はひとりこの地に取り残された。

 虚ろ竜の舞う空をながめても、彼女は応えてくれない。それでも、ポーテンコは愛しい人へと語りかける。

「教えてください……。あの子たちは――」

 自身の言葉は、かろやかな灯花の音によって遮られる。驚いた周囲を見回すと、風に流された花々が自分の前を通り過ぎていくところだった。

 ふと、視線を感じてそちらへと眼を向ける。

 竜の少女に抱かれたヴィーヴォが不安げな眼で自分を見つめていた。彼を抱く少女は、翼を大きくはためかせ、鋭い眼を自分へと向けていた。

 その蒼い眼に、思わず見入ってしまう。その眼の色は、彼女と同じものだから。

 少女に微笑みかけ、ポーテンコは木鹿しかの腹をる。木鹿は低くいなないて、黒い翅を動かす。

 木鹿が上昇じょうしょうするとともに、少女と少年の姿はまたたくまに小さくなっていく。そっと少女の射るような眼差しを思い出しながら、ポーテンコは眼を伏せてた。

 空から降ってきた弟の恋人は、あの人の子に違いないのだ。

 そして、彼女の父親は――

 静かに、ポーテンコは眼を閉じる。

 星空を飛ぶ虚ろ竜の羽ばたきが、かすかに聞こえてくるような気がした。

 


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