第10話 狂気

「おかえり。」

「あぁ、今帰ってきたの?」

「...ただいま。」

お姉ちゃん、心底嫌そうな顔してるね。

お母さん達は気付いてないみたい。なんでだろう。愛してるならそれくらい分かるはずなんじゃ?

あ、あいさつ忘れてた。今回はどんな反応されるのかな?罵られる?殴られる?

「ただいま。」

「おかえり、小町。」

!?

「お母さん!?今、なんて!!??」

「...おかえりなさい、小町。」

なんだか変だ。別にこの反応が変だって意味じゃない。なんだろう、お母さんの発する言葉ひとつひとつに違和感がある。それはやっぱり慣れていないからではないような...

「......」

お姉ちゃんもその違和感を感じたのだろう。先程までの嬉しそうな雰囲気はない。

...なんだ。なにがある?どこかがおかしいんだ。

「ほら、小町。そんなとこ突っ立ってないで早くリビングに入りなさい。」

「小町ちゃん。来週の参観は行けると思うよ。お母さんと2人で見に行くからね。」

!!お姉ちゃんだ。いつもなら彩って呼ぶのに、今日はその逆。つまり、お姉ちゃんがあの感覚を感じなければいけないんだ!!!そんなの、ダメ。ダメ、ダメダメダメダメダメ。

こんな感覚、初めてだ。こんな、何かに取りつかれたように嫌悪感を露にするなんてこと、今までならあり得なかった。いや、諦めていたんだ。でも、お姉ちゃんが絡むなら、話は別。絶対にお姉ちゃんは守らないと。

私に何が出来る?まず、この人達両親の思惑はなんだ。なぜ、今さら私を気づかう?なんで、お姉ちゃんを蔑ろにするの??

「小町。」

「!お姉ちゃん...」

「うん。大丈夫、大丈夫だから。」

嘘だ。あんなに存在を無視されて大丈夫だなんて思えるはずがない。私みたいにずっとだったらまだしも、朝までは普通だったのにいきなりなんて辛すぎる。

「小町、その子と喋ってないで、早くこっちに来なさい。」

...あくまでもお姉ちゃんの名前を呼ぶ気は無いんだね。

「お姉ちゃん。部屋いこう。」

「え?小町??」

「ダメ?」

「っ///いいよ!!ほんと可愛い、部屋入ったらすぐに襲える。」

良かった。お姉ちゃん、いつも通りだ。...いや、この反応はなんかダメな気もするんだけど。どんどん、おじさん思考になっていくよね、お姉ちゃん...

「小町!待ちなさい!!」

「...やですけど。」

あぁ、私ってこんなに冷酷な人間だったんだ。こんな、感情のこもっていない声を出せるなんて。

「お姉ちゃん、いこう。」

「っ!うん!どこまでも付いてくからね!!」

...もう手遅れだわ、お姉ちゃん。


「ねぇ、お姉ちゃん。」

「うん?なに!?襲ってもいいの!??」

「......」

「ゴメンナサイ。」

うん。まぁ、いいよ。

「で、ほんとになぁに?」

「あのね、これがいつまで続くのか分からないから、明日もこのままだったら、2人で真南斗先輩のお家に泊まらせてもらおう?」

真南斗先輩には悪いけど、頼れるのは先輩しかいない。

...私のことを嫌わずに接してくれるのは真南斗先輩だけだから。そういえば、真南斗先輩のお兄さんの郁斗さんも私と普通に接してくれる。なんでだろ?

「ねぇ、小町。それ本気?」

珍しい。お姉ちゃんがそんなに嫌がるなんて。

「うん。本気だよ?あ、もちろん、真南斗先輩がダメって言うなら、お姉ちゃんだけでも泊めさせてもらって?」

「私だけなんて絶対嫌!!小町がいないと生きてけないもん!!」

「でも、真南斗先輩が嫌がるなら仕方ないよ?」

「小町、真南斗君に限ってそれはない。むしろ私が追い出される。」

「?なんで??それに私、お姉ちゃんがいないなら泊まらないよ?」

「小町ぃぃぃ!!ほんと可愛い!自慢の妹!!」

「えへへ、お姉ちゃんも私の自慢だよ?」

「///!!ありがとう!」

私はお姉ちゃんが傷付くなんて絶対に嫌だ。お姉ちゃんを傷付ける場所なんて私にとって地獄でしかない。そんな場所にお姉ちゃんを置いとくなんて出来ない。

なんとしてでもお姉ちゃんは守る。

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