子供の恋 その2
真希には大学生になるまでずっと、男友達と言う物は存在しなかった。
彼女にとって男性は恋愛対象以外何物でもなく、男性の種類は「好きな人」と「その他大勢」の二つしかなかった。その為少しでも特定の男性と仲が良くなると、相手がその気がなくてもそれは真希にとって「恋」となった。
大学生になった時、恋人目当てではなく、異性の友人をたくさん作っている男性と知り合った。強く衝撃を受けた。何故そうするのか、の理由が全く分らなかった。最初は誤解もした。彼は真希にも親しく接したから、真希は素直に彼に恋をした。しかし、彼のその親しさが分け隔てなく皆に向けられ、向けられた女性達も恋人を持っていない彼の「彼女」にならない様を見て、ようやくそれが友情だと気付いた。分かったから、真希は恋を打ち明ける事なく彼から退いた。
そうして、彼が真希の初めての男友達となった。その後も「恋人候補」のフィルターを取り除くと、男友達が何人かできるようになった。
彼達と付き合ううちに、何故大学時代の彼が異性の友人を作るのかが、少し分かった気がする。
男友達とは真希が女友達と当たり前にする事が、できない。
それは人によって違うだろうが真希の場合は、手をつないだり、うれしい時に抱き合ったり、二人だけで旅行をしたり、同じ部屋で眠るという事だ。
それができないという不便さ、好きだけど男として女としてこれ以上は踏み込めないという緊張感。そして、決してないだろうけれど同性の友人よりは万に一つの可能性がある、こいつとは恋人にも成りえるのだと言うわずかな期待。
その同性の友人との間には発生し得ない緊張感が心地良くて、異性の友人を作るのだと思う。
喧嘩をしても異性なら仲直りは簡単だ。男と女であるという単純な事実だけで、どんな複雑な理由や背景や感情も、こいつの全てを理解することはできるわけがない、と納得してしまえるから。
異性の友人は快適。
真希の場合、男友達を好きな理由は他にもある。
「子供の恋? 」
彼は焼き鳥を食べながら静かに訊いた。本当に驚いた時は、相手を傷つけないよう大げさに驚かないのは彼の良い癖だ。
「うん」
真希は二杯目のビールを飲み、続ける。
「子供の恋っていいよね。子供って、高校生くらいまでなんだけど。単純に、相手の事を好きだから好きで。純粋って感じで」
彼は少し首を傾げる。
「純粋」
「うん。高校の時とか、好きな人いたでしょ? 」
「まあ・・・。でも、高校生の時って馬鹿な事か、やらしい事しか考えなかったからなあ」
「そうなの? ・・・意外」
「そ? 不純だったよー。だから・・・、中学生ぐらいかな、純粋だったのは」
「青春てやつ? 」
「そうそう。青春してたよなあ」
真希達は笑った。
子供の恋ができる。
男友達を好きな理由。
子供の恋は、至って簡単だった。
恋は、恋だけをすれば良かった。
恋だけを見れば良かった。
相手の性格や、健康や、している事や、家族の事なんか見なくても良かった。
「その人が好きだから好き」というその単純さ。素直さ。
いつまでもその人だけを見続ける恋はできないと分かっているのに、もう少し、もう少しだけと願い、結果、私がいつか周りを見るようになる、と信じてくれていた恋人を失ってしまった。
美味しそうにビールを飲む同僚の横顔を見ながら、思う。
彼も全く自分と同じ理由で彼女と別れた事に、果たして気がついているのだろうか。
かつて彼と出会った時、友達として欲しい、と強烈に思ったのは、根底に流れる自分達の共通項を見出していたからかもしれない。
自分達の共通項。
子供の恋をしたいから。
恋する事に純粋で。
恋は楽しいものだけでしかなく。
プラトニックで楽な。
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