子供の恋
男友達と会う時は居酒屋で、と決めている。
「今どこ? え、もう着いたの。ごめん、もう少しかかりそう。先に飲んでてくれていいから」
真希は時間を気にしながら会社を出た。冷たい風の吹く駅前通りを足早に歩く。吐く息が白い。腕時計をちらりと見た。次の電車には間に合うはずだ。
本当の事を言えば、真希は居酒屋をそれほど好きではない。洋風のおしゃれなレストランや、飲みに行くなら夜景が見える、断然落ち着いたバーがいい。女友達と行くなら必ずどちらかへ行く。ちょっと気取ったその場の空気は、ぴりりと心地良い緊張感を生み、それが刺激となって会話が弾む。頑張っておしゃれをして行こう、という気になるのも楽しい。
しかし男友達と行くと、その雰囲気が逆に重荷となる。異性の友人というだけでお互いどこかしら緊張しているのに、”こういう場所へ来る男女は必ずカップル“と決め付ける無意識な周りの視線や扱いや店の空気に、だんだん潰されそうになってくるのだ。昼間の洒落たレストランも、そう。
だから自然と会うのは夜、人が多くて、騒がしくて活気のある、清潔な居酒屋となる。ムードが無い代わりに、他人を気にしなくていいし、周りも気に留めやしない。いつでも入りたい時に入り、ふらりと出られる身軽さが丁度良い。真希達は比較的新しい、チェーンの居酒屋へ、金曜日の夜に行く事が多い。前述の条件にぴったりなのだ。
店に着くと、カウンターに座っている男友達の姿が見えた。賑やかな周りの中で、一人ビールをゆっくりと飲んでいる。
「ごめん、待った? 」
「いや、それほどでも」
真希は彼の隣に座り、テーブル下のスペースに書類鞄をぎゅうぎゅうと詰め込んだ。彼が尋ねる。
「残業? 」
「うん、まあね。でも今月はまだマシな方。もうちょっと暇になるといいんだけど」
「どこも人手を減らしてるからね。あ、ビール頼む? 」
「うん」
彼は手を挙げて、生中二つ、と頼んだ。カウンターの中で串かつを揚げる美味しそうな音がする。
彼は会社の同僚である。歓迎会で気が合い、他の同僚達と一緒に飲みに行く中で、段々と親しくなっていった。お互い恋人がいるとわかった時、真希はこの人を友人にしたい、と何故か強烈に思った。そうして月に一度は飲みに誘い、二人で飲むようになって四年が過ぎた。その間にお互い恋人とは別れたが、友情は変わらず続いている。
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