第25話 女の子って何でできているのか。

 右に渡、左に安城寺。両手に花……そんなわけがない。傍から見れば、両脇に可憐な女子を携えながらこれ見よがしに自分がモテていることをアピールして歩いている。とあらぬ勘違いを誰もが誘発しているに違いない。

 二人に肩を借りて、というか強引に肩を貸されて保健室へと向かう。

 俺のポジション、狩猟されたての動物。捕獲された宇宙人グレイ。自分から保健室に連れてってと言っておきながら、周囲に助けてくださいと無性に叫びたくなる。

 叫んだところで嫌味にしか聞こえないだろうが。困ったものだ。


 さらに、困ることがある。それは手のやり場。

 どう考慮しても手がおっぱいを鷲掴みできる位置にくる。

 おみ足をダイレクトに触ってしまうお姫様抱っこ。胸の感触をダイレクトに感じてしまうおんぶ。股間のぬくもりがダイレクトに伝わってくる肩車。この三大お抱え行為に、新たに肩組みをプラスして四大お抱え行為をここに締結してもいいのではなからろうか。

 これらはすべて『女の子』という魅惑生物に触れるだけではなく、エッチなことも堪能していいのかと頭を抱えて悩まされる行為。おっぱいが、太ももが、お股が、思春期真っ盛りの男子を誘惑してくるのだ。

 さらに密着しているせいで匂ってくる女性特有の甘い香りが押し殺そうとしている煩悩本能を心の奥底から引き上げにかかる。

 指が勝手に胸元へと歩み寄る。そして、がっしりとキャッチ!!


「ちょっと痛いよ、森田くん」

「ごめんごめん」

「もうちょっと優しく掴んでくれないと、腕がとれちゃうよ」

「ごめんごめん」

 

 公衆の面前で女性を愛撫する勇気はあいにくと持ち合わせていない。露出大好きぃ見られるの大好きぃな安城寺ではあるまいし。

 おっぱいを揉むことを渋々断念し、ということで、二の腕で手を打った俺。ふむふむムフフフフ。女子ってのはどこもかしこもおっぱいと同じ感触でできてんだな。疑似おっぱいだ。さすがはガイノイド脂肪、おそるべし。


「おい、知ってるか」

「はい何でしょうか、渡さん」

「二の腕触られるのってある意味胸揉まれるより屈辱的なんだぜ」


 ほほう、それならお胸は揉んでよろしいのでしょうか、などと言えば最後。俺の命は一瞬にして尽きることになる。保健室のベッドどころの騒ぎではなくなってしまう。


「そうよ、森田くん。私の心に巣くう悪鬼がたった今目覚めてしまったわ」

「おい、ついさっきまで優しく掴んでって言ってたじゃないか」

「それは掴むならの話で、本来ならあんまり触ってほしくない場所ではあるのよね、二の腕って」

「そうなんだ。ぷにぷにしてて、いいと思うんだけどなぁ」

「なに? 私がデブだって言いたいわけ?」

「どちらかといえば、掴みたかったのはおっぱいだ、って言いたいな……あっ」


 安城寺とはお馴染みの会話のリズム。安城寺と話をするとなぜかポロッとひと粒の躊躇いもなく出てしまう本音。はぁ、この際ダダ漏れになってしまう心根はどうしようもないので、これからもドバドバ漏らしていくことにしよう。


「てめぇ、覚悟はできてんだろうな、モッコリ変態野郎」


 俺はとっさに頭を下げた。この後、渡にボコボコにされて保健室送りになる未来は予知能力者じゃなくても容易にわかる。今日はどこに叩かれるんだろうなぁ、楽しみ楽しみ……ってドMみたいな思考回路になってんな、俺。

 二人の足が止まる。

 どうやら本当にこれからボコられるみたいだな、とほほ。

 しかし何やらおかしい。俺は覚悟を決めて痛みに備えるも、いっこうに体のどこにも痛みが走らない。

 そっと顔を上げると、その理由がすぐにわかった。


「森田俊平、校内でのふしだらな行為はやめたまえ。それにしても、よくもこうも堂々とできたものだな」

「まるで俺が主導権持ってるような言い方するのやめてくれないかな。どっからどう見ても俺は被害者だろうが」


 両サイドにいる女子二人は、このはた迷惑な男のせいで立ち往生していただけのようだ。


「言い訳はいっさい聞かない。貴様がその両手で何を触ろうとしていたか、俺にはお見通しだ」

「べべべ、別に俺は肩借りてただけだし。それよりお前、どうして俺が子の両手で何かを触ろうとしてたこと知ってんだよッ」

「そそそ、それは、学校の風紀を守るために、危険分子である貴様を監視していただけで、とやかく言われる筋合いはないッ」

「ははーん、さては俺可愛い子と一緒にいたのが羨ましてく妬ましく悔しくて、ずーっと物影から嫉妬ギラギラ光線放ってやがったな、さすがは天下の風紀委員長殿、やることがえげつないですなぁ」

「確かに、貴様ばっかり可愛い女の子と、そればかりか安城寺さんと……こほん、いいから、君たち、いい加減離れたらどうだ」


 一瞬剥がれかけたメッキは、咳払いひとつで体裁を保つことに成功したようだ。

 これ以上事を荒立てたくなかった俺は、風紀委員長殿の申し出を素直に受け入れることにした。けっして屈したわけではない。


「まったく次から次へと女をたらし込むとは……けしからん」


 風紀委員長殿は俺が言うことを聞き入れたことでアドバンテージを得たと勘違いしたのか、グイグイと威圧的に接してきた。

 なので、俺は正面から向き合わずに軽くあしらってやることにした。


「はあ、俺だって女の子を本当にたらしこめたら、どれだけ嬉しいものか。実情誰一人として俺のこと好きになってくれやしない。俺から言わせてもらえれば、あんたの方がよっぽど女ったらしに思えるよ」

「なんだと」

「いやいやだってあんた、渡紘っていう彼女いるじゃん」


 しかもちょうど目の前に。そういえば、もしかして気づいてないの、マジかよ、普通気づくだろうよ……って人のこと言えねぇか、でも俺渡の彼女じゃないし。


「彼女がいてもモテるのはいいもんだろうが。男ならわかるだろ」

「……ああ、わかるよ」

「そうだろ? なんだ、お前わかるやつじゃないか」

「俺がわかるってのは渡の気持ちだって言ってんだよ」


 俺の腕が強く握り締められている。言いようのない想いを断った俺の腕一本にぶつけているんだ。痛い。まあでもいつぞやみたいにフライパンでぶん殴られるよりは百倍マシか。

 さて、何も言えない渡のために、ここはひと肌脱いであげるとしましょうか。


「風紀委員長殿、俺から一つアドバイスしてもいいか」

「貴様から俺にアドバイスだと?」

「そうそう。それではアドバイスです。成宮君だっけ? あんた、風紀委員やめた方がいいよ。金髪で風紀委員ってのは、正直どうかと思う」

「んだと、貴様――」


 成宮が反抗的に何かを言いかけようとしたのはわかった。だけど俺たちはそれをさえぎり、目的地である保健室へと向かうべく足を再び進め始めた。まったく、渡の精神状態が心配で保健室に行くことになろうとはな。普段ガサツな渡とはいえ女の子なんだからちゃんとケアしてあげないと。女の子はデリケートなんだから。

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