第3夜「クラシック」

コンコン

「セバスチャンです…失礼致します」

ガチャリッ


「…おやおや、お嬢様でしたか。洋梨がベッドに転がっているかと。

寝不足がお続きになられたせいですね。運動のかいなくなんと水々しいお姿。ミイラとりがミイラならぬ、むくみとりがむくみ、ではありませんか。砂漠におられましたら水道がわりに有り難がられますものを。日本にお生まれで残念でございますね。

…眠れないのであれば、そうですね。クラシックでもおかけしましょう。心身ともにリラックスできますよ。

え? クラシックは好きじゃない? どこが良いのか分からない?  

…シッ お嬢様! お静かに……っ! それ以上発言してはなりません! どこでWNA(世界貴族社会保護結社)が聞き耳を立てているか…。

ふぅ。なんと恐れ多い事を。このセバスチャン、心の臓が縮みましたよ。もし盗聴でもされていたら、今のご発言は脳天を撃ち抜かれてもおかしくないほどの禁句タブーでしたからね。…よろしいですか、お嬢様。紅茶とクラシックの分からぬ貴族など、墨と筆を持たぬ書道家のようなもの。もしもです。この家が没落なされて、お嬢様独り路頭に迷われたとしましょう。親切な方から「お嬢さん、パンか水をお持ちしましょうか?」とお声をかけられたとして、貴方様のお答えは一つです。「いいえ、どちらも結構です。紅茶とクラシックをいただけます?」それがノブリス・オブリージュというものです。


…さあ、本日の教養はここまで。バッハをお流しいたしましょう。バッハの旋律は流れる水の如し… 失礼。これ以上の水分は毒でございましたね。それでは、お嬢様。お休みなさいませ。ーーよい夢を。」



カチリッ

コツコツコツ…



〜就寝〜

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