第7話 誰だ
木の洞の『我が家』とコンビニを往復する生活が一か月ほど続き、この生活に慣れてきたころに事件は起こった。
夜中にコンビニに行っている間に、我が家が何者かに荒らされたのだ。
この頭の弱い俺が、必死になって機能的な配置を考えた食料や飲み物、それに生活用品や本などが、帰ってきたときには滅茶苦茶になっていたのだ。
何だよこれ、どうなってんだ。誰だよ畜生、出てきやがれ! 俺がせっかく作った家をなんだと思ってんだ、ボコボコにしてやる!
……?
おいおいおい、ちょっと待て。ここには何も生き物はいなかったんじゃないのか? 一体何に荒らされたんだよ?
周りを注意深く観察すると、何者かの足跡が残されているのがわかる。これは哺乳類だ、しかもそれなりに大型で体重もありそうだ。
木の幹に傷がついている。これは鋭い爪か何かで引っ掻いた後だ。すぐそばの枝は折れてぶら下がったままになっている。ちょっとこれはかなりの破壊力だぞ?
嫌だな……なんだかわからないけど、こんなのと鉢合わせたくないな。
とにかくこのままにはしておけない。食べ物は殆ど食い散らかされて残っていないが、レジ籠や本などはそのままあちこちに吹っ飛ばされて残っている。
俺は納得がいかないまま、必死で『我が家』を片付けた。
*
その日の晩、俺は荒らされた分を補充するためにまたコンビニへ行った。最近では一番遠い場所だった。砂浜に建っていて、店舗の半分は海の中だった。
遠かったので、その日はあまり多くの荷物も持てず、必要最小限の食料やお茶だけを持って我が家へと戻った。
真夜中のジャングルの往復を終えて、俺を待っていたのは、再び荒らされた我が家の悲惨な姿だった。
許せねえ。
誰だか知らんが、俺のいない間にやって来て俺の家を荒らしていくお前がどうしても許せねえ。
二日連チャンで来たってことは、この場所を覚えたということだ。ヤツは必ず今日の晩も来る。そいつが何者なのか、この目で確かめてやる。
今日はコンビニが遠かったので食料しか持って来ていない。戦うほどの装備は無いが、何者かきっちり見届けて、今晩コンビニで戦闘のための準備をしよう。決戦は明日の晩だ。
*
俺は夕方になると、我が家にしている木の上に登り、ヤツが来るのを待った。とにかく相手が何者なのか確かめるのが先決だ。
今の俺は武器も防具も無ければ、戦闘能力も皆無だ。彼を知り己を知れば 百戦殆うからず。孫子だってそう言ってる。
日が暮れて、小一時間ほど経った頃だろうか、何か生き物の気配がした。
ヤツだ。ヤツが来たに違いない。
暗闇に紛れて何か黒っぽい生き物が移動してくる。なんだろう、暗くてよく見えないが四足歩行しているようだ。
ヤツは洞の前まで来ると後ろ脚二本で立ち上がった。背丈は俺と同じくらいだ。だが、明らかに体重は俺の倍はある。
クマ? クマか? 俺の知っている限りでは、ツキノワグマが一番近い。
だとしたら何故こんなところにツキノワグマが?
そんなことを考えているうちに、そのクマのような生き物は洞の中に入って行き、中でガサゴソと何か漁っている。くっそー、そこは俺んちなんだよ、勝手にいじるんじゃねえよ!
かといってもしもクマだったら、俺の太刀打ちできる相手じゃねぇ。あーくそ、さっさと出て行けよっ!
そのクマのような生き物(恐らく本当にツキノワグマだと思う)はしばらく
*
ヤツの気配がなくなるまで十分に待ってから、俺は静かに木から降りてみた。
地面にはヤツの足跡がたくさん残されている。やっぱりこれはクマだろう。
他に生き物らしい生き物を見かけないこの土地に、いきなりのクマ?
いやいやいや、クマって肉食だろう。生き物がいないってことは餌が無いってことだろ。どうやってここまで成長したんだ?
どこかに何かのコロニーがあるのか? いや、そんなものはまだ見かけていない。ここに一か月ほど住んでわかったことだが、ここは半島でも何でもない半径5キロほどの独立した島だ。俺はもうこの島のことはほぼ知り尽くしている。
もしかしてあのクマも俺と同じように、この木に突如転送されてきたんじゃないのか?
だとしたら、もしもヤツがコンビニを見つけてしまったら、俺の生活基盤が揺るぐことになるんじゃないのか? 俺とヤツとでコンビニの争奪戦になるんじゃないのか?
でも待てよ、ヤツはいつも俺がコンビニに行ってる時間帯に現れる。つまり俺と行動パターンが同じということだ。昼間寝ていて夜になるとここに食い物を漁りに来るという事だろう。
それならここに罠を仕掛けてヤツを倒すか。倒すのは難しいか、せめてここに来るのを嫌がるようになるような仕掛けを作るか。
まずは仕掛けだ。そこからだ。
夜が明けるまでまだ時間はある、今からコンビニへ向かおう。
俺は天を衝くコンビニの光を目指して足を進めた。
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