第三章 仁志隆生

第1話 チートなチートなサバイバル

 目を開けるとそこは真っ暗だった。


 俺は何かにもたれかかっていたようで、背中にガサッっとした感触がある。


 しばらくすると目が慣れてきたので、辺りを見渡してみた。

 生い茂るような木の影がうっすらと見える。

 遠くの方は暗くてよく見えないが、俺はどうやら大きな木の上にいるようだった。


 って何でこんなとこにいるんだ?



 えーと、俺はいつものように勤め先である工場での仕事を終え

 いつものようにコンビニで晩飯の唐揚げ弁当を買い

 いつものように家に帰ってそれを食べて


 ・・・・・・その後の記憶が無い。

 服装は家にいた時と同じスウエットで裸足。

 いくらなんでも靴も履かずに外に出たりしない。

 俺はいったい?


 しばらく考え込んでいると

「ん? あれは?」

 遠くの木の隙間から光が差しているのに気づいた。

 あそこに何かあるのだろうか。


 うん、ここで悩んでても仕方ない。

 俺はゆっくりと木を降り、その光がある方へ歩いて行った。


 二時間ほど歩いた後で森を抜けると視界が開けた。

 

 そこにあったのは・・・・・・


「え?」


 文字が書かれている看板。

 壁はガラス張りで中からは蛍光灯の光。

 

 それは俺がいつも行くコンビニと同じものだった。


「こんなとこにコンビニが?」

 おそるおそる店内に入ると、入り口から向かって右側には白いレジ台があり、そこに置かれているガラスケースの中には肉まんやピザまんがある。

 左手側にある陳列棚を見ると菓子パンや調理パンが置かれている。

 奥の方には飲み物を冷やす冷蔵庫。

 やはりいつものコンビニだ。


「すみませーん!」

 誰かいないかと思って大声で呼んでみたが、反応がない。

 レジに入って店員がいるであろうスペースを除いてみたが、誰もいない。

 電気が点いてるんだから人がいても良さそうなのに・・・・・・

 

「どうしようか・・・・・・うん」

 俺は商品棚にあった靴下を取って履いた。

 さすがに靴は置いてないが、これでいくらかマシだ。

 後はペットボトルのお茶、おにぎりとパンを幾つか取ってレジにあったビニール袋に詰め、それらと懐中電灯と杖代わりにビニール傘を持って外に出た。

 ホントならお金を置いていったけど、あいにく財布どころか何も持ってなかった。

 後で店員さんを見つけられたら謝ろう。


 俺は元いた場所へと戻る事にした。

 その方がいいと何故か思ったので。

 戻った後、俺は木の下で朝が来るまで待つことにした。

 


 そして朝、辺りが明るくなったので俺は再びあのコンビニを目指した。

 もしかしたら誰かいるかもしれない。


 だがコンビニがあった場所に着くと、そこには何もなかった。

 まるで初めから存在してなかったかのように。

 場所を間違えたとは思えない。


 あれは幻だったのか?

 いや、コンビニから持ってきた傘が手にある。

 どういう事だ?


 しばらく歩いていると森を抜けた。

 そこに見えたのは真っ青な海。

 水平線が遠くに見える。


 ここまで誰とも出会ってない。

 もしかしてここは無人島なんだろうか?

 

 この時は気づいてなかった。

 俺がもし星座に詳しかったら、空に見える星が地球から見えるものとは違う事に気づいていただろう。

 

 ---


 夜になって元いた場所の木の上から辺りを見ていると、昨日とは別の場所に明かりが見えた。

 もしかして、と思い俺はそこへ向かった。

 そしてそこにあったのは思った通り、昨日と同じコンビニだった。


 中に入ると昨日いくらか持って帰ったのに、まるで誰かが補充しているかのように隙間無く同じものが置かれていた。

 何だこれ?

 ここっていったい何なんだ?

 うーん。

 

 とりあえず俺は持って帰れるだけのおにぎりやパン、それにカップ麺や弁当、1.5リットルのペットボトル、後ライターを取って袋に詰め、また元いた場所へと戻った。

 そして翌朝、またコンビニがあった場所に行くとやはり何もなかった。

 もしかしたら夜にだけ現れるのか?


 その晩、木の上から辺りを見ているとまた違う場所に光が見えた。

 行ってみるとやはり同じコンビニがあった。

 どうやら思った通りのようだな。



 それからは夜になるのを待ち、光が見えたらそこへ行って必要なものを持って木の側に戻ってくるを繰り返した。

 このコンビニは毎回違う場所に現れるが、元いた場所からの距離は歩いて二時間ほどでだいたい同じだった。


 改めて思ったが、コンビニには生活に必要なものが揃っている。

 書籍コーナーを見るとサバイバル関連の本もあった。

 これで最初は不便だった生活がだんだんと快適になってきた。


 ジュースやビールの缶を積み上げた柱、商品を入れていたダンボール箱にビニール袋を貼り付けたもので作った壁と屋根。

 新聞紙を床に敷き詰め、絨毯代わり。

 これが俺の家。

 自分で作った家ってのはヘボくても愛着が湧くもんだな。


 新聞紙は布団代わりにもなった。

 体に巻きつけるとこれが結構温かい。

 


 後は枯れた枝や葉っぱを集め、火をつけてそこに水を入れた空き缶を置く。

 これでお湯が沸かせるからカップ麺も食べれるしインスタントの味噌汁やスープも作れる。

 やっぱ温かいものも食べたいもんな。 



 後に「いっそコンビニで暮らしとけばよかったかも」と思った事もあったが、この時は何故かそういう気にならなかった。

 

 もし俺がそのままコンビニに住み着いていたとしたらどうなっていたのだろうか・・・・・・


 ---


もう何日経っただろう。サバイバル生活にも慣れてきたある日の事だった。

 俺はいつものようにコンビニから戻って来ると、ガサガサっと家の横に作った食料庫から物音がした。

「ん・・・・・・な!?」

 そこから出てきたのは身長1.7mはありそうな熊のような生き物だった。

「ような」というのはその大きい体は黒い毛で覆われているが、頭が猪のようで牙が生えてる奴だったから・・・・・・


 猪熊は俺を一瞥すると森の奥へと歩いて行った。

 

 奴が去った後、食料庫を見ると中はズタズタに荒らされていた。

「くそ・・・・・・折角蓄えたのに」

 しかし何だあれは?

 あんな生き物がこの世にいたのか?

 いや、ここはただの無人島じゃない。

 夜にしか現れないコンビニがある時点で・・・・・・そうか。


 その後何度も俺が居ない間に荒らされ、直してはまた・・・・・・


「このままではずっとこれの繰り返しだ・・・・・・くそ、せっかく手に入れた暮らしを・・・・・・よし!」

 生まれて初めて心に火が点いた。

 あいつを絶対やっつけてやろう。

 折角築いた俺の生活を守るんだ!


 ・・・・・・でもどうやって倒そうか。

 まともにやっても返り討ちに遭うだけだろう。

 

 俺は何かヒントはないかとコンビニにある本や雑誌を読みあさった。 

「・・・・・・あ、これなら俺にも出来そうだ」

 

 俺は必要なものを集め、それを持って家に帰った。


 

 その晩もまた奴がやってきた。

 俺は近くの岩陰に隠れ、奴を見張っていた。


 奴は俺が予め外に出しておいた菓子類を見て、それを漁ろうと近づいた時

 

「これでもくらえ!」

 食用油を入れたウイスキーの瓶。

 その口にティッシュを詰めて火をつけたもの、火炎瓶を幾つか奴に投げつけた。

 

「ギャアアアア!?」

 そのうちの一つが奴の顔に当たって燃え上がり、悲鳴のような鳴き声を発している。

 

「そりゃ!」

 その隙にまた火炎瓶を投げつけた。

 しかし今度はかわされ、奴は勢い良くこっちに突進してきた。

 だがそれも計算のうちだ。

 もう少し・・・・・・よし!


 ズドン!


 奴は予め掘っておいた落とし穴に落ちた。

 その辺りの地面が柔らかかったのが幸いだった。

 そしてそこには食用油を詰めた紙パックが置いてある。


「グオ・・・・・・」

 奴が穴から這い上がろうとしたので、火炎瓶を一つ穴に向かって投げつけた。

 それが紙パックに引火して、一気に奴ごと燃え上がった。

「ゴアアアアアー!」


 ・・・・・・やがて火が消え、奴はピクリとも動かなくなった。


「や、やったあ!」

 俺はあんなのを倒せた。

 俺は・・・・・・やれたんだ。


---


奴を倒した後、俺はサバイバルではあるが平穏な暮らしをしていた。


 そんなある日の事だった。


 家の側にある木、すなわち俺が最初にここに来た場所が輝きだした。

「え、これって?」


 何故だろう?

 この光をくぐれば元の世界に戻れるかも。

 不思議とそう思った。


 俺はその光の方へ進もうとしたが、ふと立ち止まって思った。

 

 元の世界に戻ったとしてどうする?

 また職場の工場とコンビニと自宅の往復というを繰り返すのか?

 

 それよりこのままこの世界にいた方がいいかもしれない。

 ここで築いた生活の方がいいかもしれない。


 

 ・・・・・・いいや、俺はここに来てわかった。

 努力次第で出来る事がある。

 あるものを工夫して家も作った。

 やる気を出せばあんな怪物も倒せた。

 俺だって自信を持てば・・・・・・


 よし、帰ろう。

 そしてやってみよう。


 俺は光の中へ、元の世界へと進んでいった。



 そして・・・・・・




 終

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