第二章 のば

第1話 チートなチートなサバイバル

落ち着いて。まあそこに座りなよ。

コーヒー飲むかい?インスタントだけどね。あ、ミルクは切らしてるんだ、いるなら明日とってくる。

え?ここはどこかって。

それはね・・・


俺は湯を沸かし始めた。


ここは木の上だよ、無人島のね。ここがどこなのかは俺も知らない。俺も一年前にここにとばされてきたんだ。

え?意味が分かんない?

そうだね、俺も意味分かんない。でもこれから話す事は本当に俺に起こった事なんだ。


その日俺はいつも通り仕事に行って、いつも通り働いて、いつも通り自分の部屋で眠りについたんだ。そして目が覚めたらここにいた。

そりゃビビったさ。その時持ってたのは寝るときに来てたスエットだけだったんだぜ。スマホも何にも無かったんだ。

俺は途方にくれて夜までじっとしてた。

何もできなかったんだよね。

夜になっても灯りとか何もなくてさ。ああ、無人島にいるんだって思った。

知ってる?他に灯りがないと月明かりって眩しいんだぜ。

で、ぼ~っと周りを眺めてると遠くに灯りが見えたんだ。白い光。明らかに自然の光と違う人工の光だった。

俺は助かったと思った。

それで俺は夜のジャングルを一人彷徨い歩いたんだ。

そりゃ怖かったさ。月明かりはあるけど真っ暗だし、裸足ですぐに足は痛くなるし、川に落ちてズブ濡れになるし、服なんかボロボロになっちゃうしね。

2時間くらいかけて何とかその光に辿り着いたんだ。

その光・・・何だったんだと思う?

それ、コンビニだったんだ・・・。


信じられる?ジャングルの真ん中にコンビニだぜ?

最初は俺も目を疑ったさ。でもそれは間違いなくコンビニだった。しかもイレブンマートだぜ。イレブンマートなら俺の近所にもある。現れたのは別のイレブンマートだったけどね。

そこで助けを呼ぼうと思ったけどいくら呼んでも誰も出て来ない。中には誰も居なかった。

仕方ないから食うもん食って要るもんとって、外で一休みしてたんだ。

すると、コンビニは朝日を浴びるとその光に溶けるように消えて無くなったんだ。

え?意味が分かんない?

いや、消えて無くなったとしか言えない。文字通り消えて無くなったんだから。

それでもコンビニから持ち出した物はしっかり残ってたんだけどね。


いや、その時俺死のうと思った。もう死んでもいいやってね。

だっていきなり無人島に放り出されて絶望して、コンビニって言う希望を持たされて、その後すぐに絶望だぜ。もうどん底にもほどがあるってもんだ。

どうせ死ぬなら元いた所でと思ってこの木の所に戻ったら、今度は別の場所が光ってた。

もうヤケだ!って行ってみたらやっぱりコンビニだったんだ。

今度はプーソンだったけどね。

あはは、笑えるだろ?イレブンマートの次はプーソンだぜ。え?笑えない・・・?ま、いいや。そこでもまた食い物とってここに戻ってきたんだ。


コンビニは次の日もその次の日も現れた。

現れる場所はいつも違ってた。で、日が暮れると現れて朝日とともに消滅するんだ。

何でか?そんな事は分からない。

ただ現れて消える、それだけだ。


それから俺の、昼間はここに戻り夜にコンビニを目指すという生活が始まったんだ。

少しずつルールが分かってきた。

・コンビニは日が暮れると現れ朝日とともに消滅する。

・電気、ガス、水道は使える。電話は使えない。インターネットも使えない。

・コンビニから持ち出した物は消えない。

・商品は毎日新しい物が並んでる。消費期限が毎日新しくなってるからね。それに週刊誌とかも毎日新しくなってた。

・コンビニは日本の各地からやってきた物らしい。え?何でわかったかって?

雑誌コーナーにタウン情報誌とかバイト情報誌とかあるけど、それが毎日違うんだよ。


そこで俺はいろいろ試してみた。

商品以外の物、例えば事務所にある物を持ちだしたらどうなるのか?

無事持ち出せた。

巨大な物は大丈夫なのか?

事務所の机も持ち出せた。

入口の外に置いた物はどうなるのか?

残っていた。

入口を閉まらなくしてみた。

コンビニは普通に消えた。

入口を閉まらなくして、そこにモノを置いてみた。

入口より内側にある物は消えていた。


そこで俺は一つの仮説をたてた。

このコンビニは突然湧いて来たものじゃなくて日本から転送されてきている。じゃあ消えて無くなるんじゃなくて元の日本に返っているんじゃないか?ってね。

そう、コンビニが消える瞬間この中にいれば日本に帰れるかも知れない!そう思ったのさ。

まずおれはその辺から木の枝を拾ってきて人形をつくった。

アタマの部分にバンダナを巻いてさ。

それをコンビニの中に置いてみた。

うん、元々この島にあった物がコンビニと一緒に消えるかの実験なんだ。この島にあったモノを異物として取り残すならバンダナだけ消えるはず。

そして・・・結果、人形は消えていた。実験は成功だった。

その後何度か実験を繰り返してみたがやはり上手くいったんだ。そして俺は自分で試す事にした。

もちろんコンビニが元の世界に戻ってるなんて保証はない。どこか別の空気も無い様な所に飛ばされる可能性だってある。でも試さずにはいられなかった。

そして・・・。

実験は失敗だった。

コンビニが消えたあと、俺は一人取り残されたんだ。

何度か試してみたけどダメ。俺と俺の触れている物は消えないんだ。

『ここじゃない』なんて変な幻聴も聞こえたりしてな。


俺は諦めた。そして・・・ 

このコンビニサバイバルを楽しむ事にしたんだ!


メロンパンにソフトクリーム挟んで食った事ある?

コンビニスイーツの食べ比べやった事ある?

シャツもパンツも毎日新品だぜ。

あ、服?

時々事務所の中に多分アルバイト君のだと思うけど私服が入ってたりするんだよね。それを拝借してる。

この島は相当南方にあるみたいで冬がないみたいなんだ。2月でもTシャツ一枚でも寝られちゃう。虫除けスプレーは必須だけどね。

この木、大きいだろ。

少し上に大きなうろがあるんだ。そこは雨も降り込まないし日も入らない。そこで昼間は寝てるんだ。

後で案内するよ。床に発泡スチロールトレイを砕いた物を敷き詰めてその上にレジャーシートをかけてるから快適だぜ。


お湯が沸いたみたいだ。牛乳瓶に揚げ物用の油を入れて靴紐を刺した簡易アルコールランプ、俺の手製だぜ。


インスタントだけどどう?温まるよ。

玄米茶も紅茶もあるよ。

淹れ立てのコーヒーならコンビニに行けば飲めるけどね。


あ、笑った。笑うとかわいいじゃん。

ちょっと安心したよ。

そうだお風呂もあるんだぜ。入るには一日かかるから今日はむりだけどさ。

え?コンビニにお風呂もあるのかって?

あはははは、ある訳ないじゃん。

作ったんだよ。

近くにきれいな川があってさ。あ、その水飲めるんだぜ。

その川の横をスコップで掘ってさ。

え?スコップも売ってたのか?違うよ。多分雪かき用。冬場に東北のコンビニに置いてあった。

川の側を人が入れる位に掘ってあるんだ。普段は川の水が流れ込むからきれいなんだ。風呂に入る時はその側で焚き火をして石を焼くんだ。

そして風呂の上下を堰き止めて焼いた石を放り込む。

熱くなり過ぎたら水を足して調整するんだ。天然の露天風呂、サイコーだぜ。

しかも風呂掃除要らず!あはは。


歯磨きも顔を洗うのも全部ミネラルウォーター。ちょっとしたセレブ気分だぜ。

お菓子もカップ麺も新商品食べ放題だ。どう?少し楽しそうでしょ。


あ、この傷?これはちょっとね・・・

俺、夜のジャングルを歩いて行くわけだろ。そこでいろんな動物に出会うわけさ。うさぎやタヌキ、鹿なんかも見掛けたな。最初はビビったぜ。闇の中にキラリと光る2つの目!

もうそれだけで逃げ出しそうになったんだ。だんだん慣れてきくるとそんな事も無くなったけどね。

で、コンビニからの帰り道、それを見つけちまったんだ。

木の幹の俺の身長より高い所に大きな爪痕。多分熊だ。

島の南の方角だった。

俺は南の方には近づかない事にした。一日や二日は行かなくても大丈夫な位備蓄はしてあったからね。

そして事件は起こったんだ。


その日コンビニが現れたのは南よりの西の海岸。距離的には大したことが無いんだけど川を渡らなきゃなんないから時間がかかったんだ。コンビニに着いたのは深夜2時を過ぎていた。

コンビニは・・・ボロボロに荒らされてた。入り口はぶち破られ、レジ上の揚げ物は食い散らかされ、おでんは容れ物毎ひっくり返されてた。弁当コーナーは棚ごと壊されていた。


それまでコンビニに動物が入って来ることはなかったんだ。だから俺『コンビニは安全地帯』だと思ってた。

コンビニは不思議な力で守られた特別な場所だと思い込んでいたんだ。

それが突然破られた。

それまではたまたま入ってなかっただけなんだ。動物達は警戒して入ってなかっただけだったんだろうな。

しかしもう違う。奴らはその味を覚えてしまった。次にコンビニが現れたら奴らはまっすぐにコンビニを目指すだろう。

そしていつかは直接闘わなきゃなんない。

俺は身震いした。相手はまだ見ぬ巨大な熊なんだから。


何とか手を考えなきゃいけない。

どうする?やはり一番妥当なのは罠を張る事だろう。

どうやって?熊の巣も分からない。次にコンビニが出てくる場所も分からない。

それに俺、罠の知識なんかねえし。

じゃあ直接闘うか?

もちろん素手でじゃムリだ。武器を用意しなきゃ。コンビニにあるもので作れる武器って?俺は必死で考えたんだ。

でも大して思いつかなくて。

コンビニに売ってる刃物って果物ナイフくらいだろ?稀にステンレスの包丁も置いていたけど攻撃力という点じゃ果物ナイフと変わらない。

俺は商品を置いている棚を分解し手頃な長さの鉄の棒を取ら出すと果物ナイフをくくりつけた。即先の槍だ。果物ナイフのいいところは刃の部分に鞘がある事だな。普段は鞘に収めとける。とりあえず槍は4本作った。それをストッキングで作った紐で背中に括りつけた。次に火炎瓶だ。ペットボトルに揚げ物用の油を詰めると新聞紙で蓋をした。

試しに1本火をつけてみる。

うんよく燃える。

近くの岩に投げつけた。

瓶の様に割れはしないけど油が飛び散りかなり広く炎上した。

使える!

あと、サランラップを取り出すと七味、胡椒を詰めギュッと縛った。目潰しだ。

うーん、決定的な何かが足りない。

とりあえずこれだけ装備してコンビニに出かけたんだ。


それから一週間、何事もなく過ごす事ができた。

昼間は森の中を見回り熊の様子を探ったんだ。って言っても何も見つけられなかったけどね。


そして10日目。

その日も何事もなく過ごせたと思ってたんだ。

明け方5時。俺は帰りの準備をほぼ終えていた。

その時、外からガサガサと音がした。

俺、音には凄く敏感になってたんだよな。音のする方を見ると、奴がいた。

熊、動物園では見た事があるけどこんなに間近で見たのは初めてだ。

動物園で見た熊とは少し違うような?

下顎から巨大な牙がでてる。四つ足で歩く姿巨大なイノシシみたいだ。

熊?イノシシ?よく分からない。

この中に入れてはいけない!

俺は槍を取り出すとその辺りをガンガン叩き始めた。

『うぉおおおおお~~!』

精いっぱいの威嚇だ!このままあっちに行ってくれ!

猪熊はこっちをジッと見ている。

俺はもう一度吠えた。

その瞬間、奴は入り口のガラスをぶち破って中に入ってきた。

明らかに俺を狙っている。あの巨大な牙で刺されたら一たまりもないぞ。

猪熊は俺に向かって突進してきた。

アイスクリームの什器が無惨な形に凹んでる。

俺は店の奥に逃げこんだ。ここなら突進はして来れないだろう。

奴は二本足で立ち上がると前足で俺を攻撃してきた、。

早い!

奴の腕が一振りされる毎に店の物が粉々になっていく。

火炎瓶!ダメだこんな所で使うと店が、燃えてしまうを

俺は腰につけていた目潰しを奴に投げつけた。

胡椒の方は当たらなかったけど、七味とうがらしの方は上手く顔に当たった。

ぐぅおわぉあああ~~!

奴は盲滅法に腕を振り回したてきた。奴が完全に明後日の方向を向いた。今だ!

俺は全身の体力と体重を込めてナイフを奴の背中突き立てた。

刺さった~!もう1本だ。

無闇に腕を振り回して近づけない。

槍1本ではほとんどダメージが無い。せめてもう1本。

今がチャンスだ!おれは再び槍を構え奴に向かっていった。

喰らええええ!

不意に奴が振り向き俺をなぎ倒した。

胸に大きな爪痕が、痛え。。。

すげえ血が出てきた。

あれ、俺もう終わりなのかな。

この暮らし、結構楽しくなってきたのにな、、。

こんな奴のせいでこの生活終わるのか・・・・・


イヤダ!今までずっと流されて生きてきたけど、これだけは譲れねえ!

この生活は俺が守る!

お前なんかに壊させるもんかぁ!

俺は腰につけた火炎瓶に火をつけた。

喰らえ!

パァ~~ン!火炎瓶は派手に砕けちった。

上手く猪熊の顔の周りに火がついたようだ。。

ぐぅおわぉあぉあぉあ~~、

猪熊は暴れ回っている。俺はコンビニの中を逃げ回った。

火が周りに燃え移った、

上半身を燃やしながら猪熊が迫ってくる。

もう逃げ場はない。。

万事休すか、、。と思った瞬間、コンビニが光り始めたんだ。

朝日だ。コンビニが消滅していく。

一歩、また、一歩と猪熊が迫ってくる。

後50センチ程の所で猪熊は光に包まれた、

カッ!

一瞬あたりが真っ白になるとそこには何も残っていなかった。

勝った!勝ったぞぉ~~~~!

俺は叫んでいた。

「やった!やったぞぉ~!」

思えば本当に必死で自分の力で何かを勝ち取ったのって生まれて初めてだったかも知れない。


俺はその足で何とか木まで戻るとありったけの消毒液で傷を洗った。痛え!俺はそのまま眠ってしまった。

多分すっげえ熱が出たんだと思う。

二、三日動けなかったけど熱が下がって何とか回復出来たんだ。

多分俺、凄く強くなってた。


熱が下がるとめっちゃ腹が減ってさ。

保存食みんな食ってしまってまた集め直しになった。

その後はめっちゃ元気になってさ。

コンビニにあるものでいろいろ作ったりした。結構楽しかったぜ。

少し残念なのは話し相手がいない事くらいかな。


そして今日、夕陽が沈み始めた頃、俺が飛ばされてきたこの場所が光ってたんだ。まるでコンビニが消える時みたいにね。


俺は直感的に分かった。ここが元の場所に繋がってるって。戻れる!

でも、ここと元の世界、何が違うんだ?

職場とコンビニと家の往復だけの生活、そこに自由はなかった。

ここにはそれがある!俺は帰りたいのか?


夕陽が沈むまで5分程だっただろう。

夕陽が完全に落ちてしまった後に・・・君が居たんだ。


ようこそ、僕の世界へ。


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