白虎の子

数学か物理か小説か

第1話

 白虎は子供を女に預けた。女の体に自分の子を宿し、逃げていった。白虎は妖怪として生きていた。

 

 ある夜であった。桜は吐き気をして、トイレに駆け込んだ。

「おえ、おえええ!」

 桜の嗚咽は続いた。

「大丈夫か?」

 洋介は桜の体を心配した。洋介は桜の夫で、結婚して3年が経つ。この夫婦に子供はいない。作ろうともしたが、桜の体は子供を産めるほど強くなかった。だが、夫婦の営みはしてなかった。

「体になにか異変が。病院行くか?」

「ええ。夜間はあるわよね?」

「ええっと。相鉄線沿いに夜間救急があるみたい。行ってみよう。」

「うん。」

 洋介は桜を介抱して、車に乗り込んだ。車に乗り込むと、病院まで車を飛ばした。途中に交通事故が起こっていたらしく、少しだけ予定よりも着くのが遅れた。

 病院に行くとすぐに問診を受けることができた。

「ええっと。嘔吐だっけ?」

「はい。」

「最近何か食べた?」

「焼きうどんを夕飯に食べました。」

「そうですか。それでは、お腹を見てみましょう。お腹出して。」

 そう言うと、医者は腹を触って桜の体を調べた。

「ここ押すと痛い?」

「いえ。」

「ここ押すと?」

「別に。」

「そうですか。原因はもしかして。一応エコーとっておきましょう。」

「エコーですか。」

「もしかして、妊娠している可能性も。」

 そう言うと、桜が言った。

「そんなはずありません!』

「そうですか。でも、原因は何かわからないです。一応のエコーなので。」

 僕はうなずいた。

「分かりました。」

 そうすると、洋介は外に出された。暗い廊下。今にも何か出てきそうな雰囲気が漂っていた。

「嫌だな。」

 洋介がそうつぶやくと、どこからともなく

「見つけた。」

 という声が聞こえた。洋介はそれが幻聴のように聞こえた。

「寝不足かな。最近寝てなかったし。」

 そう言うと、洋介は廊下の奥から猫が飛び出してきた。

 洋介は飛び上がった。

「わあ!」

 そこにはしっぽが2つある猫がいた。

「ねこ?」

「お主か、白虎の子をみごもったのは。」

「白虎?」

「そうだ。この地域一帯を守る守り神であり、妖怪とも呼ばれている神様だ。」

「神様?」

 いきなり、猫が現れ、妻に身ごもっている子供が神様の子供だという。洋介は混乱した。神様がこの世にいるのも信じられないでいる。洋介は神など信じてはいなかった。神などいない。いたらこんな世界など作るはずがない。そう思っていた。

 猫はこう続けていった。

「お主、その神の子を私に譲れ。」

「は!?」

「神の子の肉の味はどんな珍味よりも美味だという。世界広しを見回してみても神の肉はうまいとされている。」

「それは言い伝えであって、人間の肉がうまいはずがないだろ!」

「それがうまいのだよ。妖怪の世界では。」

 洋介はその猫を叩いた。

「猫だろうと誰だろうと、子供を渡す親がどこにいる!』

 その瞬間、主治医の先生が廊下に飛び出してきた。

「どうしたんです?」

「いや、何も。」

「それよりも。」

「え?」

「おめでとうございます。」

「ということは?」

「妊娠しています。」

 その後、洋介と桜は病院をあとにして、車に乗り込もうとした。その時、車に猫が入り込んできた。さっき見たしゃべる猫だった。

 洋介は叫んだ。

「おい!勝手に入ってくるんじゃない!」

 桜はのんきに

「かわいい。ねえ、洋介。」

 と言った。

「騙されるな!こいつはしゃべる猫なんだぞ!」

「そんなはずないわよね。ねえ、猫ちゃん。」

 猫はこういった。

「そのはずはあるのだが。」

 妻はその場で失神をした。洋介はその場で桜の身を受け止めた。

「おい、桜!」

 そうすると猫は

「大丈夫だ。失神しただけだ。」とのんきに言った。

「そんなの分かってる。全くこの猫は。とっととどっかいけ!」

 洋介がそう言うと、どこからともなく声が聞こえた。

「そうだ、どっかにいけ、この化け猫が。」

「え?」

 洋介はあたりを見渡した。だが、誰もいなかった。洋介は上を見てみた。そこに火車の妖怪がいた。

「主よ、私と契約をせぬか。その子を渡す代わりにお前を喰うのをやめてやる。」

 一方的な不平等な契約だった。

「な、なんなんだよ、今日は!」

 猫は妖怪にこう告げた。

「おい、怪物よ。その身ごもっている子は、神の子と知っての狼藉か。」

「ああ、そうだが。」

「白虎は今陰陽師から逃げまわる身。だが、その時間は長くは続かないだろう。そして、戻った時にこのこを今のうちに食っていたらお主はどうなる?」

「それは。」

「それを考えずに、食べるのは私はお勧めできないがね。」

 そう言うと、火車はどこかに飛んでいった。

「あいつは、一体。」

「あいつが妖怪だ。我々は怪物と呼んでいるので。」

「怪物?」

「まあ、神にもなれなかった出来損ないっていう意味だ。」

「じゃあ、あいつも神様だって言うことか。」

「そうじゃ。だが、何らかの原因で神になり損なってしまった。そういう奴らなんだ。」

「そうか。」

「ああいうやつがいるとなるとお主たちを見守らねばならなくなるな。」

「え?」

「そうだ。私が見ることにしよう。」

「見るってうちに来るっていうことか!?」

「そうじゃ。そうすればwin-winだ。生まれたら食えるし、お主も怪物に襲われれずに済む。」

「えっと。」

「まあ、一人でなんとかしたいのであればそれはそれで構わないが。」

 洋介に選択肢はなかった。受け入れるしかなかった。

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