Tänzer,Hexer《テンツァー、ヘクサー》踊り子と妖術師
訳/HUECO
4 ケストナーがリューネブルクの国で、芝居を上演したこと。ならびに少女を救ったこと。
第1話 旅芸人
ケストナーの一座はイルメナウ川を左岸沿いに南下していた。
リューベックを出立して既に一週間余り、
一座は神聖ローマ帝国内をほぼ時計回りに巡回している。この土地を訪れるのも一年振りであった。
街中に入ると、市場広場の前で左折し、街の東外れに在る芝居小屋の前に馬車を止めた。
「挨拶してくる」
ケストナーはそう言い残して、小屋の木戸から中に入った。
主のヘルマンは無用心にも、客席の長椅子の上で寝ていた。
「ヘルマン!」
「ん……おおっ、ケストナー。やっと、お
「遅れて済まん」
「なに、構わんさ。メルン市の当局から連絡は来てたよ。何でも、旅の途中で人攫いの連中を捕まえたんだって?」
「成り行きで」
と、ケストナーは左右の
「ははっ、そうか。でも、まぁ、遅れた分の請求はメルン市が立て替えてくれるっていうんだから、損はしない。それに
「なら、
「そうだとも。ははっ。馬車は表か?」
「ああ」
「じゃあ、挨拶でもせんとな」
ケストナーはヘルマンの後ろを付いていった。
馬車にはぜーマンとローズマリーが乗っていた。
「おい。二人だけか? 後の奴等はどうした?」
「皆、辞めた」
「辞めたっ! どうして? 他所にでも引き抜かれたのか?」
「違う」
「カールが自分の一座を立ち上げたのよ」
と、ローズマリーが口を挟んだ。
「カールがか? あの若造が?」
「そう。他の四人を
「おいおい、本当か?」
「ああ。ここんとこ、どうも様子が変だと気にはしていたんだが。上手くやられたよ」
「夜逃げよ、夜逃げ。衣装なんかも持ち逃げされちゃって」
と、ローズマリーが諸手を上げた。
「おい。それはそうと、芝居はどうするんだ? 出来るのか?」
「まあ、なんとかなるさ」
「なんとかって。たった三人でか?」
「私、衣装が無いのよ」
と、再びローズマリーが訴えた。
「何っ、衣装もか!」
「そう。ニーナのあばずれが女物の衣装の大半をくすねて行ったのよ。残っているのは、農婦の衣装か、魔女の服ぐらいなもんよ」
「おいおい、大丈夫か?」
「そう興奮しなさんな」
「これが興奮せずにいられるか!」
「来る途中で、何をやるか色々と練ってきたから」
「んん……」
「上演は明日からでいいだろう?」
「それはいいが……本当に大丈夫か?」
「任せとけ」
ケストナーはヘルマンの肩に手を回した。
「さあ、これから準備だ!」
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