第12章 炎の髪を持つ青年 1
どれほど気を失っていたのだろう。
「エポナを見つけられなかっただと⁉ おい、グウェン。この責任はどう取るつもりだ?」
耳に飛び込んできた
周囲を確認しようとして、荷物のように何かの袋に入れられ、ぐるぐると縄をかけられているのに気がついた。
「エポナがローマ側にいて、何の問題があるのです? 元々ローマに
罵声に答える冷静な声は、レティシアを
自由になった手で、顔にかかる髪や乱れたストラを手早く直す。今の自分はひどい有様に違いない。
レティシアが運び込まれていたのは、小さな天幕だった。天幕の天井から下げられた
「総督の
グウェンが尊大そうな背の高い若者に、レティシアを
鍛えられた
首に二重に巻いた金の
青年は布袋から現れたレティシアを見て、「ほう」と感心したように息を吐いた。
「なるほど。これほど
青年が伸ばした手を、一歩退いて避ける。
「あなた達は何者なのです? ここはどこですか⁉」
怯えを隠して青年を睨みつける。青年は少し驚いた顔を見せた後、楽しげに喉を鳴らすと、やにわに一歩大きく踏み出した。
振り払う間もなく腕を掴まれ、広い胸板に抱き寄せられる。
「他に先に尋ねることがあるんじゃないか? これから自分がどんな目に遭うか、とか」
武骨な手に顎を掴まれ、無理矢理、上を向かされる。
「放して!」
戒めを解こうと暴れるが、青年の手は鋼のようにびくともしない。
青年の濃い緑の瞳と視線が合う、楽しげにレティシアを見下ろす目は、獲物をいたぶる獣のようだ。
「ネウィウスの縁者というが、どういう関係だ? 奴には息子しかいないと聞いている。息子の嫁か婚約者か? まさか、ネウィウスの情婦ではあるまい?」
からかい混じりに問いながら、青年の顔が近づいてくる。
「放しなさいと……っ」
恐怖に駆られ、右手を振り上げる。しかし、青年の
「なんだ、邪魔するなグウェン。見た目に反して、気の強い女は嫌いじゃない。楽しめるからな」
つまらなさそうに青年がレティシアの手を掴んだグウェンを見やる。グウェンは呆れたように吐息した。
「クォーデン族の次期族長ともあろう方が、頬に女のひっかき傷をつけて歩くおつもりですか? せっかく捕らえた大事な人質です。お遊びはおやめください、ゲルキン様」
堅苦しいグウェンの声に、ゲルキンは「はんっ」と地面に
「遊んだっていいじゃないか。嫁を寝取られたと知ったら、奴らがどんな間抜け面を
ゲルキンの言葉に、ぞっと血の気が引く。おかまいなしにゲルキンがストラを
「見ろよ。ローマ人はひらひらした服で女を飾り立てるのがお好きらしい。絹の下には、もっと肌触りのいいものが隠れているに違いないぜ」
「やめて‼」
レティシアはゲルキンの腕から逃れようと必死にもがいた。
ゲルキンに触れられるだけで、絹のストラが汚されていくような心地になる。ヒルベウスに贈られた薄紅色のストラ。もう二度と見せる機会などないだろうが、他の男に汚されるなんて御免だ。
「これ以上、
こんな男に汚されるくらいなら、死んだ方がましだ。人質として利用される懸念もなくなる。
本気で告げても、ゲルキンは上機嫌に笑うばかりだ。
「子狐のように毛を逆立てているぞ。面白い。飼えんものかな」
「ゲルキン様! どうせ飽きたらすぐに捨てるんでしょうに」
グウェンが呆れたように吐息する。
「なかなか飽きないかもしれないぞ? ゲルマンの女と違って
もがくレティシアを力づくで封じ込め、ゲルキンの顔が近づいてくる。おぞましさに思わず目を閉じた時。
「ゲルキン殿! エポナの
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