エピローグ

 それから約三週間。五十嵐は一度も学校へ来なかった。薫もぼうっとしている事が多く、ミスが目立つようになった。そんなある日。突然、五十嵐が学校へとやってきた。教室に自分より先にいた五十嵐の姿を見て、薫の肩は異常なほど大きく跳ねて、身体はわずかに震えていた。五十嵐は薫の姿を視界に入れると、すぐに薫の前へとやってきた。

「悪かった!」

 そして、勢いよく頭下げた。

「はぁ?」

 薫の代わりに声を上げたのは美奈。その場にいた全員がその異常な光景に注目する。それでも五十嵐は言葉を続けた。

「三週間前。本当に悪かった。お前が人の事バカにするようなやつじゃねぇってことくれぇちょっと考えれば分かったんだ。なのに、すげぇショックでそこまで頭が回んなかった。最近学校でも上手くやれてると思ってたのに裏切られた。そう思ったんだよ。本当に悪かった!」

 五十嵐の必死の謝罪にその理由を聞きただそうと美奈が一歩踏み出すよりも早く、薫がその肩を掴んでゆっくりと起こした。

「そんな……頭なんて下げないでください……元はと言えば黙ってた僕が悪かったんです。本当にごめんなさい。五十嵐くんは……」

「圭吾」

「えっ?」

「許してくれるんなら、名前で呼んでくれよ」

「……圭吾くん」

「おう。薫。本当に悪かった」

 恐る恐る呼ばれた名前に五十嵐は嬉しそうに頷いた。完全に二人の世界。外野は置いてけぼりである。

「圭吾くん。本当に……」

「薫。こんな俺だけど、俺とまた、友だちやってくれるか?」

 その言葉に薫の顔がぱあっと明るくなる。木が風に揺らされて奏でる小さな音が教室へと迷い込む。

「もちろん! 君がいいなら、僕と仲良くしてほしい!」

「あったりまえだろ。あとさ……出来れば、あの格好でも……また会ってくれねぇか?」

 薫が応えようとしたが、その声は五十嵐には届かなかった。

「ちょっと! 黙って聞いてれば何!? 二人の間に何があったの!?

あの格好って!?」

 突如割り込んで来た高い声に二人が顔を見合わせる。その顔にはハッキリとマズいと書かれていた。互いの顔にその言葉を見た二人は一つ、頷き合う。

「そ、そうだ! 五十嵐くんが休んでる間に随分授業進んだんだ! あんまり時間ないけど、教えてあげるよ」

「お、おう! 助かるわ」

「ちょっと! 二人とも逃げないでよ! まだ何にも聴いてないんだから! みんなの前で言った以上説明義務があると思うわよ!」

「ほら、みんなも自分の時間は有意義に過ごしたらどうかな。ごめんね、僕たちが時間とっちゃって」

「だから、説明を!」

「薫! まずは数学頼む」

「まかせて!」

 それから数日、クラスメイトから問いつめられることは度々あったが、結局二人が真相を話すことは一度もなかった。

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