何だかんだ、気を遣われて
「おっはー」
「あ、晋也…おはよう…」
ミカが消えて一週間。
俺はミカを探し回るでもなく、不登校になるでもなく、普通に学校に通っている。
普通に、今まで通り。
ミカがうちに来る、前までのように。
「あの、晋也…大丈夫?」
「なんだよそれー。問題ねえよー」
あれから、何だか皆気を遣ってくる。大丈夫もなにも、これが普通なんだ。
家に美少女がいるわけがない。
これが、本来の俺の生活。
少し前までは早く家に帰りたい気持ちから授業が恐ろしく長く感じられたが、それもなくなった。むしろ早く帰るよりも誰かと寄り道でもしたいくらいだ。
ミカがうちに来た途端にさっさと帰り、居なくなったら誰かに構って欲しい。
自分でも悲しくなるほど自己中心的だ。
「晋也、お昼は?」
「ん、パン買ってくるわ」
「待ってるね」
あんな曖昧なフり方をした上、当の女が消えて沈みに沈む、なんて情けないざまをみせているのに、綾香は未だに普通に接してくれている。本人がそれがいいのなら構わないが、優しすぎないか。
とにかく、目下の目標はメロンパンという名のカロリーお化けと焼きそばパンという炭水化物×炭水化物奇跡のコラボパン。それを目指して購買まで猛ダッシュで向かうと、見慣れた顔が既にそこにいた。
「汝が求めるは、この二つだな…?」
その手に乗るは、レーズンパンとカレーパン。
「おい!シカトすんなよ!」
「いやだって全然ちげえし…」
個数しか合ってない。
無事目標の二つを手に入れると、英也も持っていた二つを購入してついてくる。
「フラれたくらいでいつまで引きずってんだよぉ。綾香を見習え?」
「…るせ。」
本人いたらぶん殴られるぞ。
ミカの事は『家出してやってきた幼馴染が家に帰った』程度に話した。女子陣は何か気を遣ってこの事には触れず、逆に男子陣はそれに反比例ようにイジリ倒してくる。
しかし俺が愛想尽かされた、とは思えない。
いや、思いたくないだけか。
「ハラへったから先もどるぞー」
「お、おい!ちょ、チョマテヨ!」
「しんやー帰りマックでも寄ろうずぇ」
「おっけー」
「おっ!?」
ホームルームが終わり、同じ自転車通学の二人が集ってくる。俺も丁度寄り道したい気分だった。
家に帰っても、誰もいないのだから。
「三人で寄り道とか久しぶりだな」
「ここんとこ誰かがノリ悪かったからな」
「ごめんて」
二人がポテトやナゲットを軽く摘まむ中、俺だけはがっつりセットメニューを並べる。
来てしまえば匂いにつられて色々と頼んでしまう、ファストフードの魔法。今はそんなに気にする事は無いが、将来的には危険だ。気をつけねば。
「晋也は綾香フッたけどさあ」
「なんだよ。綾香にぶん殴られるぞ。」
改がポテトを頬張りながらやぶからスティックに攻撃を仕掛けてくる。なんなんだお前ら。綾香に対して厳しすぎるだろ。
しかしその攻撃対象は珍しく俺ではなく。
「英也はどうなんだよ」
「何が?」
「夏鈴と」
「ぶばっっ」
霧吹きのようにきめ細かい水滴となったコーラが改にふりかけられる。それを正面から受けて全く動じない改はなんなんだ。何者だよ。
それに関して英也は一ミリも謝らずに真っ向から否定する。
「俺とあいつはそんなんじゃねぇから!」
「ツンデレめ」
「本っ当にないから!」
ミカの件でいじられた分、ここらで俺も仕返しと行こう。それに関しては改も敵だが、こいつは惚気るだけだから相手取るだけ無駄。この際置いておく。
「お互い毛嫌いしてる風だけど何だかんだ息合ってるしな。」
「結局一番円満にくっつきそう」
「ヤメロキモチワリィ!」
とってつけたような丁寧語がムカつく、とかいいつつなんやかんやで息ぴったりな二人。実際お似合いだと思う。
でもまぁ、そこの二人がくっついたら残った俺と綾香が気まずいからやめていただきたいが。
「事実お前ら超仲良しじゃん。どうなの?どう思ってんの?」
「どうって…いや、そりゃ嫌いではねえけど…あいつにそーゆーのはねえって。」
「へぇ~?嫌いじゃないんだぁ?」
改の表情がぐにゃりと歪む。それはもう、最高に悪趣味に。
「な、なんだよ。そりゃ嫌いだったら一緒にいたりしねえだろ。」
「え~?照れくさい事言ってくれますねえ?」
「照れくさいって……!?」
大きく見開かれた英也の目は、悪趣味に歪む改から声の聞こえた方向へと物凄い勢いで切り替わる。
「お、お前、何故ここに…」
「なんでって呼ばれたから。」
夏鈴がゆらゆらと揺らす手には、改とのトーク履歴。
『来い』
「よくそれで来たな」
「まあねえ~」
俯いて小刻みに震える英也をいじるのに飽きたのか、改はバンとテーブルを叩いて立ち上がり、高らかに宣言する。
「はい!晋也はミカちゃんにフラれたし!綾香は晋也にフラれたし!自棄カラオケといこうぜ!」
「それ…」
「本人たちの前で言うかな?」
口調では冷静でも全くおとなしくない綾香の右フックが、美しい軌道を描いて改の顎にのめり込む。
「あー、喉、キツ…」
企画者改の言い分は酷いモンだったが、結局フルで付き合ってしまった。六人でカラオケと言えば歌う回数も少なくなるはずだが、企画者の要らぬ計らいによって俺と綾香ばかり歌わされた。
そして現在夜十時。俺は問題ないけどあいつら、大丈夫なんだろうか。と言っても今更か。突然うちに泊まったりしてるもんな。
そんな事を考えながら我がマイハウスへ到着すると。
「あ?何だあれ」
ガレージ、と言ってもバイクと自転車しか停めていないのだが、そこを塞ぐように一台の車が路上駐車をしていた。
黒塗りでも高級車でもない、シルバーのワンボックスカー。
ありえないだろ、その停め方。邪魔くさすぎるわ。
ガレージの入り口、つまりその車の前まで行き、中を覗くと運転席にはスーツの男。スマホに夢中でなかなかこちらに気づかないからノックをすると、その窓よりも先にカーテンの閉まっていた後部座席の窓が開く。
「遅かったじゃないか。全く、待ちくたびれたよ。」
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