忘れていた孤独
「ただいまー」
家に呼びかけても、返事はかえってこない。
この感覚はずっと慣れていたはずなのに、なんだかいやに寂しかった。これが、当たり前だったのに。
たった一週間だった。
たった一週間で、自分はこうも弱くなってしまった。
昨日。
外を走って帰ってきても、ミカはまだ帰っていなかった。そういえば見てなかったな、とポストを確認すると、そこには家の鍵。ミカに渡していた物だ。
慌てて家じゅうを探すもミカはおらず。
とりあえず汗が気持ち悪かったから、とシャワーを浴び、何か飲もうかと冷蔵庫を開けると、そこには作り置きされたおかずと共に一枚の手紙が冷やされていた。
『ありがとう。さようなら』
理由も何もない、只の別れの挨拶。
せっかく作ってくれたおかずも食う気は起きず、かといって眠れず。ぼんやりとテレビをみて夜を明かした。
そして今日。
家に帰ればちゃっかり帰っていた、なんて展開を期待したが、やっぱりそんな事はなかった。
クローゼットを開けば、そこにはミカに買った服が下げられたまま。
夢のように一瞬の出来事だったが、しかし紛れもなく現実だった。
「あー、なにしよ」
何してたんだっけ。
ミカの来る前、一人で家にいた時。
俺は一人でどうやって時間を潰していたんだろう。
「ゲームでもすっかあ」
時間はあっても勉強はしたくないし、そういえば俺ゲーム好きだったな。
オンラインストアを適当に漁っていると、好きなタイトルの最新作が出ているのを見つける。普段だったら発売日に逃さないのに。
本当に、一週間俺は別人のようだった。
「ミカがいなけりゃ何もできない体になってしまった…」
「んお、もうこんな時間か」
気が付いたら夜の八時を回っていた。なんだかんだ言ってやり始めたら止まらないもんだ。
「メシメシー…あ」
即席麺でも食おうかとキッチンに来て、冷蔵庫の中身を思い出す。
煮込みハンバーグに鶏肉のチーズ焼き。青椒肉絲きんぴらごぼうぶり大根エトセトラ…。
「いや、作りすぎくね」
煮込みハンバーグときんぴらごぼうをセレクトして電子レンジにぶち込む。
見惚れるような手際とエプロン姿があったはずのキッチンには、数時間ゲームをしてしょぼくれた目をこする男と稼働する電子レンジのみ。
深い、深いため息が漏れる。
「はー、うま」
作り置きでも、やっぱりうまい。
特徴のないお手本のような味だと思っていたが、いつの間にかそれを『ミカの味』として舌が覚えている。
それを伝える相手がいない分の沈黙は、テレビの音で紛らわす。
今頃、何をしているんだろう。
生みの親の元にいるのだろうか。
はたまた、変な人間につかまったりしていないだろうか。
「んー、やめやめ」
心配したところでどうしようもない。
それどころか俺にはミカを心配する義理だって、ないんじゃないか。
飯を食い終わっても、やっぱり何かする気にはなれなかった。
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