後悔
家に着くと、ミカは出かけていたらしく、帰宅の挨拶をしても返事はなかった。
ちょうどいい。今は少し、一人になりたかった。
倒れるようにソファーに飛び込むと同時、無意識にクソデカため息が漏れる。
「あー、あー…あー、ああ…。」
頭の中であれやこれやがごちゃまぜになって、独り言さえまともに出てこない。
告白された。
綾香に。
そして、フった。
どうしてだろう。
女の子に告白されたのに、どうしてこんなにも気鬱になっているのだろう。
綾香のことは嫌いじゃない、というか好きだ。勿論好きだ。嫌いな人間と友達付き合いができるほど八方美人でもお利口さんでもない。
だが俺は綾香が『好き』と言ったその時点で、断ることしか考えていなかった。それどころか、断った後に今までのような友人関係が崩れる事を恐れていた。
生意気だ。
相手の想いを突っぱねておきながら、それでも今までの関係は続けていたい、だと。
さらには断るとき、『お前に不誠実だから』だなんて断る理由を綾香に押し付けた。自分を傷つけない形で、押し付けた。
恣意的で、私意的な、自慰行為だ。
「あーくそ、あー、くそ、くそ。」
どうして、こんな俺を好いたのか。
正直、綾香の想いにはそこまで驚かなかった。前々から何となく感付いてはいた。
六人で遊んでいるときでも何かと俺にくっついてきているような気はしていたし、うちで皆で雑魚寝するときも、綾香はいつもとなりだった。
ただ、これといったアタックもなかったから俺の自意識過剰だと思っていた。男なら皆こういう経験があるだろう。勘違いして調子に乗っては恥をかくだけだと、自分に言い聞かせた。
もしそのころに告白されていたら、俺たちは付き合っていたのだろうか。
そうしたら、ミカとはどうなっていたのだろう。
ミカ。
そうならずに、こうなった俺は今、ミカのことが好きなのだろうか?
ミカのことが?あいつは機械だぞ?
確かに容姿は文句なしの出来だし、俺のために何かと尽くしてくれるところも、愛らしい。
だが、機械だ。
上と下で二つに裂かれようと、頭を砕かれようと、修理すれば直る。多分。
芽生えた感情は、どこにあるのだろう。どこかにささているメモリにでも詰まっているのだろうか。だとしたら、それを差し替えただけで別人になってしまうだろう。
そんな、機械なのだ。
「あああああ!やめ!やめよう!」
叫びながら頭を振り回し、思考リセット!
きっとこれはうだうだと考えたところで答えに出る問題ではない。
現状、目下の目途は二つ。
一つ、綾香とはこれからも仲良くすること。
生意気だが、本人もそうしたいと思ってくれているのなら、そうしたい。今回のことをきっかけに何となく距離が開いて…なんてのはゴメンだ。
二つ、ミカへの気持ちをはっきりさせる。
この際機械だなんだはさておいて、気持ちをはっきりさせる。まあはっきりさせたところでその想いを伝えるわけではないのだが、今回のように別の人間まで傷つける事は避けたい。
よし、決まり!これでこのことはいったん、
「忘れられるわけねえよなぁ…」
というか、忘れていいようなことでもない。
ふと、綾香のラインを開く。
最後のやり取りは昨日。他愛ない会話だ。
何か言おうか、と考えたが、何も思いつかなかった。
んー、落ち着け、俺。般若心経、心頭滅却、南無阿弥陀仏。
うん、少し落ち着いた。ここはひとつ、テレビでも見ようか。
そう思ってテレビの電源をつけると、ちょうどやっていたのは刑事ドラマの再放送。
『なのにあの人はっ!私が倒れた時も仕事と言って…他の女と会ってたんです…!』
「ナムサンッ!」
秒でテレビのリモコンを投げた。
畜生ッ!
全然内容は違くても痴情のもつれはやめてくれ!
こうなっては仕方がない。
「…走ろう。」
頭からっぽにして走り回ろう。そんで心も体もすっきりしよう。
ということでランニングを始めた俺は気が付けばしらないところまで来ていて、結局三十キロ近く走ったのだった。
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