即落ち、即復活



「この人でなし」

「一体どんな乱暴をはたらいたのですか」


 合流するやいなや、女性陣から謂れのない罵声を浴びる。


「いやいやいやいや」


 対して俺は、勿論否定する。俺は求められた事をこなしただけ。褒められさえすれど貶される覚えは無い。


「それにしても、こんな…こんなの…」


 亜美は憐れみの表情で視線を落とすと、その先でベンチに座る少女の頬をそっと撫でる。

 しかし少女はその手に少しも反応を見せず、虚ろな瞳はただ地を眺めていた。

 流石に、見るに堪えない有様だ。


「ねえ、綾香。亜美だよ。わかる?」

「……─………──………」


 亜美の問いかけに、何か反応したような、しないような綾香。夏鈴が呼びかけても同じだった。

 あの後。

 結局全力をもって例のシューティングゲームをクリアした。やはりと言ったところか、タイトルや期待に負けない素晴らしい出来であった。感服です。ワンコインでクリアしてごめんなさい。

 そしてその頃には綾香は既にこの様子で魂が抜けたように椅子にもたれ掛かっていた。寧ろ敵として出てきそうなくらいの生気の無さだ。

 本人の意志で動く様子が全く無く、放置しておいては誰かに拉致られそうだったから、手を引いてこいつ等と隣のボーリング場で合流したのだ。

 にしても、本当に人形のようである。本来人形であるはずのミカのほうがよっぽど人間だ。


「ちょっと晋也、あんた何か言いなさいよ!」

「えー…」


 綾香の隣に座った亜美がこちらを睨み付ける。助けを求めようと振り返るが、改と英也は我関せず、とでも言わんばかりに俺をシカトしてくっちゃべっている。ちくせう。

 分かっている。

 百パーセントでなくても、少しくらいは俺にだって責任はあるのだ。

 そりゃ、元はといえば言い出しっぺの綾香が悪いが、ふざけて長引かせた俺にも、ほんの少ーし、ちょびっとだけなら責任の一端がある可能性もなきにしもあらず。


「…わかったよぉ…。」


 俺は綾香の正面に屈み、目の高さを合わせる。そして両手で頬を包むようにして無理やり視線も合わさせた。


「綾香。中山、晋也だよ。晋也だ。」

「………………──…」


 反応は薄かった。が、ゼロではない。

 俺は、見逃さなかった。

 虚ろで、光を失っているのではないかとさえ思わせていた瞳が、微かに、ほんの一瞬、刹那よりも短い時間、確かに光を取り戻し、俺を見たのだ。


「そう、晋也。わかるだろ?晋也だよ!」

「………ぃ……ぁ…」


 今度は目だけでなく、口。

 僅かに開き、何かを言っているようないないような、そんな曖昧な動きしかしていなかった口を開き、言葉にはなっていないが、確かに声を発した。


「し……ん、ぁ……しん、やぁ……しんや…!」


 そこからの回復は早かった。

 言葉という文明を、感情を思い出した事を噛み締めるように、綾香は俺の名を何度も繰り返す。


「し、晋也、わ、私…私……!」

「いい、もういいんだ。もう、いいから。」


 涙を溢しながら何かを言いかける綾香を、そっと抱きしめてなだめる。

 そう。

 もう、いいんだ。

 君が帰ってきてくれれば、それで。

 というか、あまり掘り返さないでくれ。こちらとしても、それはそんなに気分が良くないから、さっさと忘れよう。


「なんこれ。」


 はい、茶番終了。

 亜美のツッコミを合図に綾香と離れると、もうすっかり元の様子に戻っていた。

 てか、流石に本気であそこまでぶっ壊れるってこたぁ、ねえよな。本当だったらビビるわ。

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