そうだ、ディズn──その肆
「これは、お前の為。お前の為なんだ。」
まさか眠る美少女を担いで電車に乗る気にはなれず、近くのビジホに素泊まりすることにした。人一人、いやロボ一人担いで受付を突破するのは難しいかとも思ったが、案外すんなりいけた。
素泊まりだと飯はでないらしいが、この際そんな事はどうでもよかった。ベッドとテレビ、風呂トイレがあるだけの部屋。十分。
ミカが眠る直前に言ったセリフを、思い出す。
『充電、私、臀部、尾てい──』
─骨。
どうしていままで黙っていた、と文句を言いたいところだが、それは目覚めてからだ。
「そう、お前の為…。」
自分に言い聞かせるように繰り返す。
ミカの言葉から察するに、充電の為の何かしらが尾てい骨の辺りにあるのだろう。つまり服を脱がさねばならない。
わかっている。わかっている。
既に裸だって何回か見たし、何もないのはわかっている。
しかしこうして眠りこける少女を勝手に脱がすというのは緊張するというか、罪悪感というか、背徳感というか。
これは決して俺が、お前を脱がせたいからではない。お前を目覚めさせる為なのだ。
…いいや。
俺が、お前を目覚めさせたいから、か。
ジャケットは部屋に入ったときにハンガーにかけた。後はワンピースと下着だけだ。
最初、服を買ったときに下着はいらないといわれた。というか、『必要ないんじゃ?』みたいな。勿論そんな事はわかっていたのだが、なんというかこう…俺の中の何かがそれを許さなかった。それは…ダメだろ!って。
「では、失礼をば…」
女の子の服を脱がすというイベント。その記念すべき第一回がまさかこんな美少女とは。
ただし、アンドロイド。
そして、寝てる間に勝手に。
あと、ワンピース脱がせにくい。
「はー、こんなスースーしてて寒く…ねえのか。」
オシャレは我慢、なんて言葉を聞いたことがある。特に寒さに対してだ。
しかし『寒い』という感覚が無い─おそらく、無いミカはその面でかなり有利だな。
なんてどうでもいい事を考えながらワンピースを脱がせた。
キャミソールは脱がせる必要、無いですね。ではあとはパンツなのですが。
「……許せ。」
感情が生まれても羞恥心はなさそうなミカだが、ここは謝らねば、と思った。目的は尻だし、せめてもの気遣い、という事でミカをひっくり返してうつぶせにする。
目的は尻、ってなんだよ。酷い響きだ!
レースもない、只の無地の、白パンツ。
太ももくらいまでおろしてここでやめようか、とも思ったがこれはこれでどうも申し訳ないというか、もやもやするから完全に脱がせる。
「におい嗅いだりしねえからなっ」
一秒でも長く持っていると、時間の分だけ俺の尊厳が失われていく気がする。
から、それはすぐにベッドに放り投げた。
さて、本題。
ミカの言っていた臀部、尾てい骨のあたりをよく見てみると。
「お、これか。」
それは、案外あっさり見つかった。
本当に、ちょうど尾てい骨。人間のそれと比べると少し大きく出っ張るそれを囲むように、四角くうっすらと、切れ目というかなんというか、そこが開くか外れるかするんだろうなという線があった。
が、尾てい骨(正しくはそれを模した出っ張り)をおしてみたり、その線に爪を引っ掛けてみたりしても開かない
といっても、ミカの体を覆う皮膚、人工皮膚とか言ったか、それは人間のそれと非常に感触が似ていて、あまり爪をたてる気にはなれないのだが。
「っだーーーーーっ……」
体内の酸素をすべて排出するように息を吐き出しながら、ミカの足に重なるようにベッドに倒れこむ。
三十分程いろいろ弄ってみたんだけど、眠れる美少女の尻を三十分程弄ってたんだけど、一向にそれは開かなかった。そりゃ、ちょっと押しただけで開いたりしちゃったら座っただけであいたりしちゃうからある程度固くなるのはわかるけども。
もう少し優しくてもよくないか。
横に顔を向けると、少し下にミカの尻。実に良い尻である。
腕の付け根は可動式フィギュアのような構造になっているが、足は少しだけ、違う。大体同じなのだが、付け根、ではないのだ。
前から見れば、それは足の付け根にある。しかしその切れ目は斜め下に軌道を描き、後ろから見ると尻よりも下、太ももに流れる。
この理由は明白である。
ずばり、開発者の信念!
より良い尻を生み出すという、開発者の熱い意志!
それに違いない。
ハリのある二対の深山。小さすぎず、というより寧ろ少し大きめのサイズと言えるそれはまさに『尻』。
ただひたすらに、『尻』。
黄金割合ならぬ黄金尻があるのなら、これの事をいうのだろう。
つくづく、ミカの開発者だ。
眺めているとそれは扇情的というよりも芸術的なものを見ている、とさえ感じさせる。
──パチン。
試しにはたいてみると、なるほどどうして素晴らしい。
それはさながら、砂浜にかかるさざ波、とも言えないような小さな波を起こし、しかしすぐに何もなかったかのように元の姿に還る。
パチン、パチン、パチン。
叩かれる度、それは小さく揺れ、そしてやはり元の姿へ還る。
まさに円環の理、万古不易。
パチン、パチン、パチン。
続いて、両の足首を握って、開いたり閉じたり。
にゅっ、にゅっとか頭の中で効果音つけたりして。
にゅっ、にゅっ、にゅっ。
「何やってんだ俺はっ!?」
ビジネスホテルで眠りこける少女の尻を叩き、足を開閉させて心を落ち着かせる男が、そこにはいた。
アホか。
蛮行無意味、円環もお断りである。
はぁぁ、と、今度は疲れではなく自分にがっかりした、という意味で深くため息をつき、またベッドによこになる。そしてまた、ミカの方を向く。
といっても今度はミカの足を開かせたままにしていたから、尾てい骨の下、つまりは尻の穴を覗くような形になってしまったのは不覚だった。
不覚だったが、僥倖だった。
リモコンなどの裏、電池を入れる場所のカバーにあるような、矢印替わりの三角形が、そこにあった。その矢印がさすのは上、すなわち尾てい骨の方向。
その方向に力を加えるのだろう、と試しに色々いじってみる。
最終的には、その矢印の辺りを少し強めに押し込み、そのまま矢印の方向にスライドすることで、ぱかっと九十度にそれは開いたのだった。
「おお…お。」
そしてその中には、プラグ。
このままコンセントにぶっ刺せばよさそうだ。
随分と分かりやすすぎるが、ここでまた一ひねりとかなくて良かった。よく見るとその頭も取り外しができそう。海外の別の形のコンセントにも対応出来るのだろうか。
引っ張ると、掃除機のコードのように伸びる。これで充電できそうだ。ってかしっぽみたいでちょっとかわいい。
それをコンセントにぶっ刺し、一先ず安心。尻をコンセントの側に向けて横に寝かす。あとはスリープの時のように勝手に起きてくれればいいのだが。
っと、腹減ったな。湯沸かし器あるし、コンビニでカップラーメンでも買うか。
「じゃ、ちょいとコンビニ行ってきますよー。」
「わかった。いってらっしゃい。」
幸い、というか狙った立地だろうが、近くにコンビニがあった。そこに行こう。帰るころには…いや、まだねてるか。そんなすぐには起きないだろう。
「じゃあ、おとなしく充電されてろよ。」
「うん。」
聞こえているのかわからないが、眠るミカの頬を軽くなでる。
…ん?
「どうしたの、晋也。行かないの?」
あれ?
「なんでもう起きてんだよっ!?」
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